逃げ道はこちら



アナタのそれを、恋と呼べるかは分からない






「単刀直入に聞く。テメェは何者だ」

「長曾我部元親…まあ佐助と、ゆのとは最近会って世話になり始めた。すとぉか野郎じゃあねぇ」

「会ったのはいつだ、何がきっかけだ、どんな関係だ」

「チッ…あ゛ぁー細かいことは気にすんな、怪しい者じゃあねぇからよ」

「それが信用ならねぇから気にしてんだストーカー野郎」

「……………」




片倉に連れ出され、建物の裏で一対一


顔を合わせいざ話してみるが、やっぱり、こっちの片倉は話が通じないみたいだ

いや…俺らの時代の右目と呼ばれる男と親しかったわけでもない。しかし、とにかく会話が一方通行


これは主の独眼竜がいないからか。それとも…ゆのが原因だからか




「ったく…ゆのとは何でもねぇ。むしろ何かあったら佐助が黙ってねぇだろ」

「それは確かにな」

「そこは素直に聞くのかよ」

「ああ、だからこそ妙なんだ」

「……………」

「…俺はゆのとも佐助とも、よく知った仲だ。だからこそ今、テメェみたいな野郎が湧いたことが解せねぇ」

「…なるほどな、」




そりゃそうだ。付き合いの短い俺たちでさえも、猿飛のゆのに対する異常な束縛を知っている

その二人をよく知る片倉からしちゃ、猿飛が俺らを受け入れてるのが不思議で仕方ねぇってか




「佐助も一緒になって、断れねぇゆのに無理矢理迫ってんじゃねぇだろな」

「は……あのなぁ、」

「テメェもゆのと知り合いってなら分かるはずだ。あいつの危なっかしさが、気になるだろ」

「……………」

「…心配にもなる」




壁に背中を預け、腕を組み目を閉じる片倉…心配なんだ、とこいつは言う

他人に依存しなきゃ生きられねぇゆの。それを放っておけない、だから、気にかけているんだと




「ゆの本人はできない奴じゃねぇ。むしろやればできる、だが周りと自分がそれを押さえ込んでるんだ」

「……………」

「なかなか他人に頼らず、一人で抱え込んじまう…アイツ自身は、今の自分を変えたいと思ってるんだ」





ああ、この右目は、ゆのをよく知っている





「その悩みすら押さえ込んで…だからこそ、誰かがガス抜きしてやらねぇと爆発しちまうだろ」





ゆののことを、本当に大事に思っている





「佐助はそれを良しとしねぇからな。だから、俺が…」





なのに−…








「俺がゆのの、逃げ道になる」







さっきから俺は、冷や汗が止まらなかった


淡々とゆのへの思いを語る片倉。言葉だけ聞けば正論で、ゆのを大事に思えばこそ

だが伝わってくる薄気味悪さは、いったい何だ。これが、伊達や猿飛の言ってた忠告の正体か?




「っ………!」

「……………」

「それ、を…俺に言ってどうするんだ」

「…テメェは、俺と同属だと思ってな。これという理由はなく、勘だ」

「はっ、アンタも勘で動くんだな…残念だが、俺はゆのの逃げ道になろうなんざ思ってねぇよ」

「ほう、」

「で?逃げ道ってのは猿飛からのか?」

「ああ、それ以外に誰が−…」




ガッ!!!




「っ!!!!?」

「さっきから…好き勝手言ってくれてんじゃん…!」

「っ、猿飛っ!!?」




俺の問いに片倉が肩をすくめ、答えようとする…が、その言葉を遮るように物陰から現れた男

それは真田と共に帰ったはずの猿飛で、俺が止めるより先に思い切り片倉目掛け掴みかかったっ!!




「っ、ま、待て猿飛っ!!やめろっ!!」

「…手、放せ佐助。盗み聞きなんざテメェらしいな」

「うるさい…なに、俺様の逃げ道?はっ、アンタが俺様とゆのの間に割り込もうとしてるんだろ?」

「俺は何もできちゃいねぇ、ただ、ゆのがそれを望んでるのは分かる」

「は?」

「おい片倉っ!!アンタもやめろっ!!」




猿飛が暴れねぇよう、二人きりになったはずだってのに!

掴みかかる猿飛を煽る片倉、それを前に俺は先日の一件を思い出した


…猿飛はゆのに拒まれることを、それを示唆する言葉を聞くと取り乱しちまう

この前はゆのがなだめたから平気だった。しかし今は違う




「…大丈夫だよ、長曾我部の旦那」

「っ………!」

「俺様、こう見えても、この人の前だとすこぶる冷静だから…!」

「そう見えねぇから言ってんだよっ!!俺らの話は終わった、だからもう帰るぞっ!!」

「言えって!ゆのが望んでるって何だよっ!!」

「猿飛っ!!」

「…ゆのは、俺のいる会社を選んだ」

「っ………!」

「佐助も気づいてるからこそ、こうやって俺に突っかかってくる…違うか?」





そう言って猿飛の手を払い退けた片倉は、確かに口元が笑っていた





「大学の頃から親しくやってるが、わざわざ、俺の就職先にゆのも来た。それが一番の答えだろ」

「っ…………!」

「昔から佐助以外いなかったゆのが、もう一つの選択肢として俺を置いている。俺はそれでいい」

「ぐっ…昔から、アンタは、そうやって…!」

「見てろよ佐助、そのうちゆのは自分の足でテメェから離れるぞ」

「っ!!!!?」

「それは他の誰でもなく、テメェ自身のまいた種だ」

「……………」





黙り込んだ猿飛は、もう俺が押さえずとも片倉に飛びかかりはしねぇだろう

そして言いたいことは済んだのか、猿飛の様子を見て話を終わらせたのか。片倉は壁から背中を離し立ち去ろうとする


…待て、





「片倉、」

「あ?」

「…前言撤回だな、俺もゆのが心配になるぜ。アンタから感じる妙な胡散臭さのせいでよぉ」

「……………」

「別に猿飛のやり方も、ゆののだらしない部分も、認めやしねぇし言いたいことは山ほどあるが…」






アンタがゆのを大事に思うがゆえの行動は−…






「アンタの作った逃げ道ってやつに、出口はあるのか?」






ずいぶん独り善がりに聞こえた

























「うぉおぉおっ!!!佐助っ!!長曾我部殿っ!!無事かっ!!?」

「…うるさいんだけど真田の旦那…と、竹中の旦那がお出迎えか」

「幸村君が半泣きで相談してきてね。佐助君と元親君が片倉君にころされるって」

「おー…まあ、あながち間違っちゃいねぇか」




猿飛と共に帰り着けば、玄関で待っていたのは真田と竹中


見るからに心配する真田を弱々しくあしらう猿飛は、帰り道の間で何とか冷静に戻っていた

…痛いところを突かれると弱い奴だ。みんな真田ばかり気にかけるが、こいつもなかなか心配になる野郎だぜ




「…もちろん、ゆの君には言ってないから心配しないでくれ」

「……そうか、やっぱり察しのいい奴だな、アンタ」

「ふふ、ありがとう。佐助君もそれは望まないだろうし、君は…」

「……………」

「…何かあったみたいだね」

「まあ、な…」




竹中が質問を続ける前に、俺は足早に自分の部屋へ向かう。後ろから真田が何か言ってくるが聞こえないふり、だ

筋を通すために話したはずが、あの右目は、かなり荒い波風を立てていきやがったな





「っ…くそ、同じじゃねぇってんだ、同じであってたまるか…!」

『あ…なんとかべ君っ』

「っ!!!!?」

『お帰りなさい、今日の夕飯って何だっけ?』

「ゆの…」




階段をのぼった先には、狙ったようにゆのがいた

いつものように俺を妙な名前で呼び、二言目には飯の話。だが思い出すのは片倉の−…




「……………」

『なんとかべ君?』

「…ちょ・う・そ・か・べ、な!おう、今日はあの塩辛い麺らしいぜ、あー…なんつったか…」

『ラーメン?ラーメン好きなんだよね、やったー』

「ははっ、俺もアレは好きだなっ」




俺の顔を見て異変を感じたが…考えるのは面倒なのか、すぐにコロリと切り換えた

…良かったと思う反面、妙に残念がる自分もいる。ああ、何だってんだ


















「出口、か…」

「………………」

「………ふっ、」

「っ………!」

「考えたことも無かったが、そうだな…」





必要あるのか?





20160626.
俺は全て分かってやれる

そんな独り善がりの自己満足


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