縄張り争い



「さて、今日は足りない日用品の買い出しに…」

「佐助っ!!俺も行くっ!!」

「………勝手にすればいいよ。ただし、来るからにはしっかり荷物持ちしてよねっ」

「うむっ!!任せよっ!!」






『…なんとかべ君。鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してどうしたの』

「…猿飛の奴、急に真田と仲良くなったな」

『だねーさすがは嫌われない男、幸村君。あんな佐助初めて見た』





つい先日まで、猿飛は真田に特に冷たかったはずだ


それが今、二階から降りてきた俺が見たのは共に買い物へ出かけようとしている二人の姿

先に様子を窺っていたゆのも、驚いたような嬉しそうな、そんな顔をしている




『んんー…そりゃね。私だって佐助が他の子とも仲良くできたら嬉しいよ。それに、幸村君も嬉しそう』

「ん、そうだな…これで真田も元気になるだろうぜ」

『だねー』

「ん?長曾我部の旦那!アンタもどうせ暇だろ、荷物持ちよろしく」

「長曾我部殿!共に行きましょうぞ!」

「げ、まじかよ…仕方ねぇな。ちょっくら行ってくるぜ」

『いってらっしゃい…佐助が誘うってことは、少なからずなんとかべ君のことも気に入ってるってことだよ』

「ははっ、そりゃどうも」





…だったらゆのと話してるだけで、こんなに睨まれねぇと思うんだがな

ひらひら手を振り見送るゆのに手を振り返せば、猿飛に足を思い切り踏まれた



















「言っとくけど、毛利の旦那とか大谷の旦那よりはマシって程度だから。ゆのにベタベタしないで」

「分かってる分かってる、別にアンタの邪魔はしねぇよ」

「どうだか…真田の旦那、こういう男が意外と女絡みでやらかすって覚えといた方がいいよ」

「こ、心得た!」

「真田に何教えてんだ…」





…どこが俺のこと気に入ってんだよ、と留守番してるゆのに言ってやりたかった

買い物帰り。荷物を抱えた俺をあからさまに牽制する猿飛は、真田まで味方にしようとしてやがる


…やっぱり仲がいいなぁ




「ゆのみたいな子、アンタも好きそうな気がするから」

「そんな理由かよ!気がするって勘じゃねぇかっ」

「勘も大事だってば。大谷の旦那とか完全に伏兵だったけど」

「…佐助は、まだ大谷殿に怒っているのだろうか」

「あー、別に、追い出したりしないから。真田の旦那がそんな顔しなくていいってば」

「う、うむっ!!」

「…ほんと、何があったんだよ猿飛」




猿飛の言葉にほっと安心したような顔になる真田

単に仲良くなったってだけじゃない…まるで俺らの時代の、二人を見ているようだった


…俺の話はうまくそらせたみたいだな。濡れ衣なんざごめんだぜ




「そらせてないよー」

「っ…………」

「ま、あくまで勘なのは否めないし。旦那より厄介な野郎は山ほどいるからね」

「そりゃどうも。大谷だけじゃなく千利休と将軍様にも注意しといた方がいいぜ」

「あーたぶん、一番厄介なのはそっちじゃない。俺様の宿敵は…」




猿飛がそう言いかけ振り向くと…途端にぐっと、顔がしかめられる

露骨なソレに俺と真田も何かを感じ、猿飛の視線の先へ顔を向ければそこに−…




「げっ!!?」

「なっ…!」

「…よう、なんでテメェが佐助と一緒にいるんだストーカー野郎」




物凄い殺気を飛ばしながら俺を睨む、こっちの時代の片倉が立っていた





「か、片倉殿っ!!?な、なぜ片倉殿がここにっ!?」

「あー…真田はこっちの片倉と話すのは初めてか。俺は前に会ったんだよな」

「おい、なに呑気に話してるストーカー野郎」

「あ゛ーその、すとぉかぁ野郎ってやめろ」

「何がやめろ、だ。テメェらがコソコソゆのをつけてたのを俺が現行犯で捕まえてんだ」

「あ、あの時はだな…!」

「…行くよ二人とも、片倉の旦那の相手なんかしなくていいから」

「さ、佐助っ!!?」

「待て佐助っ!!ちゃんと説明しろ!」

「はぁ?俺様が誰と一緒にいようとアンタには関係ないじゃん」

「俺には関係なくともゆのには関係ある。だから聞くんだ、答えろ」

「……………」




…まさに一触即発、そんな言葉が似合う二人の間の空気

それを察した真田も何か言おうとするが…ぐっと押し止まった。俺でも分かる。ああ、猿飛が一番厄介だと言ってた男はこいつだ




「…そういや独眼竜も、片倉が厄介だってことにおわせてたな」

「独眼竜…とは政宗殿かっ!!?政宗殿もこちらにっ!!?」

「…そうか、それもアンタがくる前の話か。真田、後で説明してやるから黙ってろ」

「…そっちの男は初めて見る顔だな。最近、ゆのの周りが妙に騒がしい」

「はっ、何それ?後輩の周辺探ってるアンタの方がストーカーなんじゃない?」

「お、おい猿飛!わざわざ喧嘩売るんじゃねぇよ!」

「いいよ別に、今に始まったことじゃないし」

「だからってなぁ…」




はじめは俺が喧嘩を売られてた。だがいつの間にか、こっちが仲裁に入っている

ただの荷物持ちだったはずが何故こんな目に。とはいえ、このままズルズルと睨まれてちゃ家まで追ってくるぞこの右目




「…はぁぁ、おい片倉。文句があるのはすとぉかぁの俺なんだろ?」

「あ?」

「…真田、猿飛連れて先に帰っとけ。あと、ゆのには黙ってろよ」

「な、何を言う長曾我部殿っ!!あちらの片倉殿は、あまり人の話を聞けぬ様子!置いては行けませぬっ!!」

「……………」

「よぉし真田、頼むから火に油を注がないでくれ。平気だ、そもそも俺はすとぉかぁじゃねぇからなっ」

「…逃げりゃいいのに、変なとこで真面目だね旦那」

「筋を通すって言ってくれや。おら右目、場所変えるぞ」

「…いいだろう。テメェとは一度、話しておきたかった」




顎で差した建物の裏。そっちへ歩いていく片倉のあとを俺が追う

すとぉかぁ、と俺を呼ぶ原因。それには前田や千利休も関わっていたはずだが、そいつらの名は出ず俺に突っかかってばかり




「…はぁ、なんで俺ばっかり濡れ衣被らなきゃならねぇんだよ」





きっちり話を通して、早く楽になりたいもんだ

だが真田の言う通り、こっちの右目はなかなかに話の通じない男らしい










「さ、佐助…長曾我部殿は大丈夫だろうか?」

「大丈夫なわけないでしょ。あーもう、だから片倉の旦那に関わるのは嫌なんだよ!」

「っ、ど、どこへ行くっ!?」

「しーっ…決まってるじゃん二人を追う」

「しかし、長曾我部殿は戻れと…」

「なんで俺様が指図されなきゃならないんだよ。それに、あの男の腹の内を聞けるチャンスかもしれない」

「ぐぐぐっ…!ならば俺も!」

「真田の旦那はダメ。絶対に盗み見とかできないでしょ、見つかるでしょ、大人しく帰ってなさい」

「………心得た」





20160529.
前編


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