飼い主の物言い 「ゆの殿!荷物持ちは某にお任せくださ−…」 「ゆの、俺様に荷物ちょーだいっ」 『あー…えっと、よろしく佐助。幸村君もありがと、気持ちだけ受け取るよ』 「………うむ」 「…おい、長曾我部。真田に何か言ってやれ」 「そうだね。幸村君のことは君に任せたよ、元親君」 「なんで俺なんだよっ!!あ゛ー…おい真田、後で俺と川にでも遊びに行ってみるか?」 『文句を言いつつちゃんと話しかけてあげるあたり、なんとかべ君まじアニキ』 絶好の散歩日和。こんな日はぼーっとするに限るけど、人間生活を送るには買い物だって重要だ というわけで佐助、なんとかべ君、石田君に半兵衛様、そして幸村君と一緒に今日は買い物に出かけた。その帰り道でのこと 「だ、大丈夫でござる長曾我部殿!さすがの某も…少しばかり、慣れてきた」 「真田…」 「なんか俺様が悪役な感じ?だから真田幸村の忍者とか知らないってば。だいたい忍者とか俺様似合わないって」 『確かに佐助、かなり目立つもんね』 「そんなことはない!佐助はやればできる男!日の本一の忍でござるっ!!」 「でもアンタがこっちに飛ばされたのに、その佐助さんは追いかけてこないじゃん」 「そ、それは…!某が不在の真田を守るため!今も立派に勤めを果たしているはずっ!!」 「探してないだけ、とか?」 「っ−………」 『佐助……幸村君ちの佐助さん、きっと心配してるから。早く帰れるといいね』 「………うむ」 『………………』 明らかに落ち込んだ様子の幸村君は、斜め下を向いて一番後ろを歩く …彼の気分転換になればいいと思ったけど、まだ、佐助と一緒はまずかったかな 『なんとかべ君…』 「あのな、困ったら俺のとこ来るのやめろ……佐助の奴、明らか真田だけにきついからな。治まるまで距離感気にしてやった方がいいだろ」 『やっぱり文句言いつつ何だかんだ助言くれるなんとかべ君ってまじアニキだね』 「でも、もしかすると無理やり近づける荒療治の方が効果があるかもしれないよ」 『そして儚い見た目に反して半兵衛様ってば力業』 私となんとかべ君の間からひょっこり顔を出す様はお茶目だけど、言ってることは体育会系な半兵衛様 後ろの石田君がうんうん頷いてるから、もしかしたら豊臣さんちはそんな教育方針なのかもしれない 「何か大きなきっかけがあると、一気に関係が変わるかもしれないじゃないか」 『うーん…それ、良い方向に進まない場合が多いような』 「無理やりっつっても、真田が猿飛に近づけないんじゃあなぁ…」 「元親君、無理やりって言葉の意味を知ってるかい?三成君、」 「はっ!!」 「ん?って、うわっ!!?」 「うおおおっ!!?」 どーんっ!!! 『おお…』 「何やってんだ石田っ!!?」 「無理やり近づけた」 『石田君も豊臣さんちの英才教育、しっかり受けてんだね』 「言ってる場合かっ!!?だ、大丈夫か真田っ!?猿飛っ!?」 半兵衛様が目配せした瞬間、お任せください!って顔で両手を構えた石田君 そして幸村君の背後に回ったかと思えば…その背中を佐助目掛けどーんっと突き飛ばす。あ、無理やりって物理的なアレ 突然のそれに対応できなかった二人は、そのまま仲良く地面にぶっ倒れた その拍子に、佐助の鞄の中身がぶちまける 「いってて…あー、もう!何すんのさっ」 「す、すまぬ佐助っ!!」 「いいから退けってっ!!ほんっと、戦国人って頭の中なに考えてるか分かんないっ!!」 「い、いや、今のは竹中と石田が特別だ。とにかく、拾うか」 「触んなくていい、俺様がやる。ったく…こんな連中と一緒なんて、その佐助さんって人に同情するよ」 「………すまぬ」 『あ、いや、今のは幸村君悪くないよ。むしろ被害者。怪我ない?』 「…うむ」 『………………』 怪我はないみたいだけど、立ち上がれない幸村君 そんな彼が窺っていたのは、プリプリ怒ってる佐助の顔だった 「…いや、豊臣にそのような教育方針などない」 『え、じゃあ半兵衛様のオリジナル?そっか…半兵衛様、あの見た目でめっちゃ荒っぽい』 「ヒヒッ、賢人の方針ならば三成も受け継いでおろう。しかし突き飛ばすとは…」 『幸村君も佐助も、怪我は無かったですけど…なんとかべ君の寿命が縮んだ気がします』 「それはゆのも一端よ」 『否めません』 家に帰った私は早速、今日の事件を刑部さんに報告する 先日飲み仲間になってから、刑部さんとは井戸端会議が増えた。その分、佐助の視線にも鋭さが増した気がするけど 「む…ゆの殿!大谷殿!」 『あ、噂をすれば幸村君』 「災難であったな真田、賢人と三成に代わり謝ろう」 「い、いや…某が鍛え足りなかっただけのこと!次こそ踏ん張ってみせようぞっ!!」 『あ、幸村君も体育会系だった』 「杞憂か」 階段を降りて現れたのは、日課になりつつあるランニングに向かおうとする幸村君だった 私と刑部さんに元気よく挨拶してくれる彼。まさに体育会系。そして可愛い。あの事件だって、結局彼は半兵衛様たちに怒らなかった 『いってらっしゃい幸村君、あまり遅くならないでね』 「心配ない!佐助が飯を作り終える前には戻るっ」 『そうしてね』 「しかし、今宵の夕餉はちと遅れそうだ」 『え?……あ、佐助も今から出かけるの?』 「…うん、まぁね」 刑部さんが指差した先を見れば、今まさに夕飯を作っているはずの佐助が出かけようとしているところだった 忘れ物かな?いや、でも佐助に限ってそんなことしないか 「すぐ戻るから」 『あ…うん、行ってらっしゃい』 「これはまた忙しない。しかし、ゆのの腹を満たすよりも優先することが、あの猿にもあったか」 『ですねーどこ行ったんでしょう…あれ、私、そんなに食い意地はって見えます?』 「……様子がおかしかった」 『へ?』 「某っ!!佐助を追うっ!!」 『あ、え、幸村君っ!?』 そう叫んだ幸村君は、私が引き止めるより先に佐助を追って家を飛び出した その背中を見送って、振り返ると刑部さんは呑気にお茶を飲んでいる。んんー? 『何が起きたんでしょうか』 「われに聞くな」 それもそうですね 20160520. 前編 ← ×
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