飼い主の主張 考えるのを諦めた 諍いを避けるようになった それは数年前のある日から… 『んっ……んんー…?』 「おお!目が覚めたかゆの!」 『ん……義輝さ…ま…?』 「………………」 『………………』 「………………」 『……膝が、かたい』 「……すまん」 「だぁあっ!!落ち込むな義輝っ!!あと将軍の膝を枕にしといて文句言うなんて、さすがはゆのちゃんだよな…!」 『慶次…おはよ』 「おはよう…」 『………あれ?』 枕の違和感で目を覚ますと、見上げた先では義輝様がにこやかに微笑んでいた ここは義輝様の膝の上。隣で慶次も頭を抱えて座っている。あれ、でもおかしいな 『私、お酒飲んだあと刑部さんの膝枕で寝たはずなのに』 「そう、それ!あっちで大変なことになってるからさ…顔洗ったら行ってあげて」 「うむ…かの賢人でも、予であっても止められぬ。あとはゆの次第だ」 『んんー…?』 …そういえば、向こうから騒がしい声がする ひとつは昔から聞き慣れた声。もうひとつは掠れた独特の……あ! 『っ−……!』 「ゆのちゃんっ!?」 『っ、待ってっ!!落ち着いて−…』 佐助っ!!!! 「だからっ、ゆのに何したんだよアンタっ!!」 「言うたであろ、一夜膝を貸したまでよ。目を血走らせ怒るほどでもなかろ」 「何があって膝枕なんかしたって聞いてんだっ!!経緯だよ経緯っ!!」 「ヒヒッぬしに伝える程のことではない。いやマコトよ」 「このっ……!」 「大谷君、ちゃんと答えてやってくれ…佐助君が納得しないと終わらないんだから」 「さ、佐助も落ち着け!大谷殿は決してゆの殿に手を出す男ではっ…」 「真田の旦那は黙ってろっ!!」 「っ−…す、すまぬっ…!」 「幸村君、君は三成君のところへ行って。ここは僕に…」 『佐助っ!!!』 「っ、ゆのっ!!!」 共用スペースを出ると私の部屋の前で、刑部さんに佐助が掴みかかっているところだった 怒る佐助に対し飄々とした刑部さん。それを止める半兵衛様と幸村君…なんとかべ君と利休先生、三成君も側で様子を見守っている …毛利さんの姿はないから、関わらないようにしてるのかな 「っ、ゆのっ…!」 『…佐助、今日、早かったね』 「嫌な予感がしたから…案の定、この男がゆのに膝枕なんかっ…!」 『あ…えっと、あれは私が酔って悪のりしたからで…刑部さんは悪くないから、落ち着いて佐助』 私を見つけた瞬間、刑部さんから手を離し駆け寄ってくる佐助 肩を掴まれ迫られる。どうやら虫の知らせで朝早くやってきて、ソファで眠る私たちを見つけてしまったらしい 刑部さんは悪くない、私が悪いの、ごめんね 「ほれ、ゆのもこう言うておる。われは濡れ衣よ」 「…庇わなくていい、ゆの。悪いのは大谷の旦那の方だから」 「はて、猿は人の言葉が通じぬか」 「大谷君!…はぁ、すまない佐助君。この件は僕に預からせてく−…」 「膝枕とか、俺様もしたことなかったんだよねー」 「っ……佐助君?」 「あはー、王道なのに盲点だよね。でもさ…」 ゆのの一番は、初めては、何でも俺様がよかったのに さっきまでと違い落ち着いた声で、身振り手振りを加え、一見おどけて話す佐助 …けど、目は笑ってない。表情はない。佐助の一番、怖い顔。こんな顔をする時は… 「…おい、千利休。あんたがゆのの部屋で朝迎えてること、絶対に言うなよ」 「あ、あれは僕じゃなくサビ助がっ…いえ、もちろんです…」 「そこ、何こそこそ話してんの?」 「ひっ…!」 「い、いや別にっ…!」 「…貴様の主張は気味が悪い」 「は?」 「私には…貴様がゆのの一番であると到底思えない」 「っ−……!」 「三成君っ!!」 苦々しく呟いた石田君の言葉に、佐助の肩がビクリと震える 慌てて石田君を止めに入る半兵衛様、 幸村君が悲しそうに佐助を振り向く、 離れた場所でワビ助先生が顔を歪め自分の頭を押さえた、 私の一番じゃない、 私は佐助が−… 『佐助っ!!』 「っ−……!」 「っ、ゆの君…」 『…大丈夫、私は佐助が大好きだから』 悩むより先に私は…正面から佐助に抱きついた 皆の視線が私たちに集まる。でもそれは気にせず、彼の背中をとんとん叩いて言い聞かせた 私は佐助が大好きで、佐助しかいなくて、だから…だから… 『…ごめんね佐助、』 「……ゆの、」 『佐助、大好き』 大好きだから…私から離れないでね。そう伝えたらようやく、佐助の心は落ち着いてくれた 「…すまぬな賢人、今回の一件はちと大人げなかった」 「まったくだ…君のことを疑うわけじゃなかったが、アレはまるで何かしたような態度だったよ」 「いや反省はしている、ゆえに三成もそう睨むな。ゆのとは何もない」 「………………」 「……はぁ、」 …あの後、ゆの君と佐助君は二人で出かけていった。彼のご機嫌取りだろう そして、残された僕たちは散々だった ワビ助君は突然倒れるし、我関せずだった元就君と三成君は喧嘩を始め、どさくさに紛れゆの君に膝枕したという帝にも三成君が怒り出す …大谷君がいつの間にか、彼女の名前をちゃんと呼ぶようになったのは気にしないでおこうか 「しかし、まさか佐助君があんなに怒るなんて。僕や大谷君が来る前に、こんな事件はあったかい?」 「っ…私がゆのの世話になると決まった日に…その時は、私がゆのに怪我を負わせてしまったことが原因でした」 「……そう、」 …まあ、それは仕方ない理由か。三成君に言うと傷つけてしまうから、口には出さないとしてもね しかし今回は違う。言ってしまえば嫉妬とやらだ、それに巻き込まれたんだ…巻き込まれた? 「…今まで佐助君ばかり気にしていたが、ゆの君も厄介な性分なのかもしれない」 「はて、今さらか」 「ゆの君は、佐助君が怒ることだと分かっていながら大谷君に膝枕を求めた」 「む……」 「けどわざとじゃない。大谷君を貶めるつもりも、佐助君を怒らせるつもりも彼女には無かった」 「ゆのは、その後起こることを考えなかった、と…?」 「それだ、三成君っ」 ゆの君はただ、考えなかっただけなんだ 常日頃、彼女は考えるのが苦手だと言っている。現に、悩んでもすぐに諦めるし他人任せが多い 昨夜もきっとそうだった。その時の気分で即決し、そして今朝の事件に繋がる 「…彼女の言う考えるのが苦手、を僕は甘く見過ぎていたのかもしれない」 「当然よ、誰しもアレほどとは思わぬ。依存しているのは猿だけではない」 「そこが気になるんだ。だって彼女、日がある内は奉公先に行ったっきりじゃないか」 「……なるほど」 「…刑部、どういうことだ」 「ヒッ…日中、猿はゆのと共におらぬ。ならばその間、猿に代わり奴の思考を牛耳る者がいる」 「っ………!」 「佐助君だけじゃなく、その誰かも彼女の性格を助長しているのかも」 そして、それは−… 「おいゆの。顔色が悪いな、何かあったか?」 『あ゛ー…片倉さん、ちょっとやらかしまして。体力がデッドラインから回復しません』 「佐助か…また一方的な嫉妬だろ、気にすんな」 『でも今回は…んんー…えっと…』 「ゆのが悩む必要はねぇ、どこかで会うタイミングがありゃ俺から言っておく」 『……あ、はい、じゃあお願いします』 「任せとけ、あとこれも飲めよ」 『ありがとうございます』 昼休みも就業中もぐったりして仕事にならない私のもとに、栄養ドリンクの差し入れと共に現れた片倉さん 私は昨日の疲れが抜けきっていない。いつもは外出を良しとしない佐助に連れ回されたから…いや、自業自得だけど 『…私が怒らせたのが悪いんですけどね、ほんと、学習しない』 「そうやって自分を責めるな。ゆのは今のままでいいんだ、今のお前で十分なんだからな」 『そう言ってくれるの片倉さんだけですよ、いつか愚痴もこぼしそうで怖いです』 「ははっ、そこまでなれたらもう一歩か」 『んんー?』 「…さて、そろそろ井伊が戻る。背筋伸ばしてねぇとうるさいぞ」 『あー…はい、心配させないよう頑張ります』 「おう、」 そうしとけっと笑って去っていく片倉さん。そんな彼を見送って、だらけた姿勢をなんとか立て直す …なんか、片倉さんに言われると素直に聞けるんだよね。なんだかんだ、佐助の次に付き合いが長いからかな 『…栄養ドリンク飲んで頑張ろ』 うん、頑張るしかないんだ 20160502. ← ×
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