美味しいは作れる



『毛利さん、毛利さん。今日、無性にお菓子が食べたくて作るんですけど何がいいです?』

「やはり貴様は唐突よな。しかし我に意見を求めるところだけは褒めてやろう」

『毛利さん、一番現代食に慣れてないみたいだから。どうせ作るなら口に合うものがいいかなって』




家の共用スペースに隣接した広めな台所。そこでお菓子の料理本をパラパラ眺めていると、飲み物を取りに来た毛利さんと鉢合わせる

今日は月に一度のやる気の日。毛利さんもその周期が分かってきたのか、現代食に我慢できなくなると私に近づいてくるようになった




『うーん…ケーキとかは在り来たりだし、和菓子がいいかなぁ』

「我の口に合うなら何でもよい」

『そこ合わせ込むのが一番難し……あ』

「何だ」

『…今日はもう1人、誘ってみますね』




















「某、団子がいいでござ−…痛いっ!!」

「貴様が勝手に決めるな、真田」

「も、毛利殿は何でも良いと言ったではないかっ!!」

『うん、じゃあ団子作ってみよう。みたらしと、きな粉と…あんこ』

「うむっ!!」

「…仕方あるまい」




毛利さんの他におやつに誘ったのは、部屋で暇を持て余していた幸村君だった


明るくハキハキして社交的な幸村君だけど、一番最後に未来へやってきた彼はあまり他の子と馴染めてないみたい

…そして佐助のこともあり、ずっと元気のない様子だから




『…ちょっとは気晴らしになるといいけど』

「…貴様、存外面倒見のよい性格よな」

『いえいえこの程度…よし、確か前に買った白玉粉。まだ使えたはず』

「おお…!すでに団子の香りがっ!!」

『いやそんなまさか』

「この男の鼻では嗅ぎ分けられるのであろう」

『あ、幸村君も犬っぽい』




棚の奥から引っ張り出す団子の元。それを見るだけで、幸村君の目がキラキラと輝き出す

毛利さんも珍しく台所の中まで入ってきた。これは多分、彼も団子が好きなんだ




『じゃあ、私のやる気の灯が消える前に作っちゃいましょう!』

「おおっ!!某もお手伝い致す!ゆの殿、ご指示をっ!!」

「まずは手を洗え。そして砂糖を計り取るがよい」

「任されよっ!!…いやいや、某はゆの殿に指示を求めたのであって、決して毛利殿には…!」

「口よりも先に手を動かせ」

「………うむ」

『………あは、』




言われた通り手を丁寧に洗いだした幸村君。渋々従っているように見えて、他の人と話せるのが嬉しそう

…利休先生の事件の時も、石田君と一緒に見張り任務に就いてたし




『…やっぱり幸村君って、ほっとけない子なんだね』

「む…そ、某、それほど頼りないだろうか」

『ううん、可愛いって意味』

「え…って、あつっ!!?」

「馬鹿か、素手で混ぜるのは冷ましてからよ」

「う゛ぅ…不甲斐なし…」

『…やっぱりほっとけない』




私、ほっとけない子好きなんだよね


そう呟いたら今度はボウルがひっくり返った

















『よし、混ぜたね。私、みたらしのたれ作るので。二人は団子を一口ぐらいに丸めといてください』

「一口…これくらいだろうか?」

『幸村君、それ、拳サイズ』

「ふん…よく見よ真田。この程度でよい」

「…毛利殿のそれでは食った気がせぬ」

「我は貴様のそれを団子とは認めぬ」

『まぁまぁ、好きな大きさで良いですよ。たれは甘すぎずしょっぱすぎずな味を目指してレッツトライ』

「楽しみにしておりますぞ!」

『任されたー』

「…………………」














「…我は何をしているのだ」

「団子作りでは?」

「分かっておる。そうではなく、何故、のんきに団子を作っているのかということだ」

「団子は美味ゆえ!」

「…馬鹿との会話は疲れる。真田、貴様もゆのももう少し考えるということを覚えよ」




ゆのがたれを煮詰めている間、我は真田と共に団子を丸める作業を繰り返す

…我も作るなどと言った覚えはないが、いつの間にか手を動かしていた。不覚





「む…た、確かに。ゆの殿も放ってはおけぬと、長曾我部殿や慶次殿も言っていた」

「ふん…それゆえ石田もゆのと同様、貴様にも口うるさいのだろうな。竹中もその気がある」

「…しかし、佐助は、某など眼中にない」

「………………」

「っ、す、すみませぬ毛利殿!つい、口が滑り…!」

「…………………」

「…………………」




それ以降、真田は黙り込み、ただ黙々と作業を続ける…が、丸める団子が段々と大きくなっていった




「集中せよ」

「っ、す、すまぬ!まだまだ慣れぬのだ…この時代と、あの佐助に」

「………………」

「別人だと分かろうとしても、できぬのだ…それゆえ、某は…某はっ…!」


『幸村君ちの佐助ってどんなの?』

「っ!!?ゆの殿…」

『幸村君、その佐助のこと大好きみたいだし。気になるの』

「…真田の相手は貴様に任せた。たれは我が見る」

『お願いします毛利さん。それで?佐助ってどんな感じ?』

「う、うむ!佐助は優秀な忍でござるっ!!」




真田と我の間に割り込んできたゆの。差し詰め、たれの調理に飽きたのだろう

ならば馬鹿の相手は馬鹿に任せるか。真田もまた、顔を輝かせ忍の話を始める




「佐助は真田で、武田で、いや天下で最も優秀な忍っ!!あいつに勝る忍などおりませぬっ!!」

『へー、すごい人なんだね』

「うむ!…しかしたまに口うるさいことはあるが」

『あ、そっちも?佐助ってお母さんみたいなこと言うんだよね』

「ゆの殿もかっ!?うむ!されど、それも某らを思ってくれてのこと!」

『まぁねー…しぶとくお願いしたら折れてくれるし』

「一緒でござるっ」

『一緒だねー』

「仕上がったぞ馬鹿共」

『あ、良い匂い。じゃあお団子も茹でようか』

「うむっ!!!」




話に夢中になる馬鹿二匹を呼べば、みたらしのタレに群がってきた。犬か

そしてつまみ食いをしようとする真田の頭を叩き、いつまでも匂いを嗅ぎ続けるゆのの髪を引っ張る。もう一度言う、犬か貴様ら




『毛利さん乱暴』

「乱暴でござる!」

「馬鹿は痛みを与えねば分からぬゆえ。躾の一貫よ」

『…毛利さんからは古きよき父性を感じる』

「ああ、頑固親父でござるか?」

『それそれ』

「貴様ら…」

『よし、あんこときな粉の準備しよう』

「おーっ!!」

「誤魔化すな」




我が怒るのに反し、ゆのと真田はケラケラと笑い出す

先ほどまでの憂いはどこへやら。真田はずいぶんと楽しげであった


























『おおお…!実に美味』

「美味でござるっ!!」

「ふん…悪くはない」

「おお…なんか珍しい組み合わせだね」

『あ、慶次。珍しくないよ、おやつ同盟。おやつ軍』




出来上がった団子の山を前に私たちがお茶をしていると、散歩帰りの慶次がやってきた

少しなら分けてあげてもいいよ。でも慶次は団子より私たちの組み合わせが気になるみたい




「おやつ軍…はは、なんか可愛い軍だな!毛利がいる時点でおっかないけど」

『慶次の承認ももらえたから、おやつ軍結成ー』

「もちろん我が大将であろうな」

「大将はゆの殿!毛利殿が軍師、某が切り込み隊長でござる!」

「…よかろう、駒のように動かしてやるわ」

「あはは…仲良しだなぁお三方」

『お団子の絆でござる』





…たまに、こんなお茶会もいいかもしれない

私のやる気さえあればね




20160417.


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