凶犬の心配と狂犬の心内



「いいかゆの、私が部屋を出たら直ぐに扉の鍵を閉めろ。確実にだ」

『分かってるよ石田君。しっかり閉めるから心配しないで』

「どの口が言う…!肝に銘じろっ!!千利休を部屋に、いや布団に入れることを私は許可しないっ!!」

『うん、私も避けられるなら避けたいんだけどね』

「くっ…!今日という今日は絶対に中には入れんっ!!」




バタンッ!!!



そう言って私の部屋の扉を閉めた石田君は、今日も今日とてご立腹だった

彼が出て行ったのを確認すると、私は言いつけ通りに内側から鍵を閉める。そしたら…




ガチャンッ…

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャッ!!!




『…そんなに回したら扉が壊れるよ石田君』




外からドアノブをガチャガチャ回し、鍵がかかってるか確かめる石田君

うん、しっかり閉まってるね。間違いないね。間違いないよね




『…おやすみなさい』





それなのに−…
















 




『………………』

「ふぁあ…!」

『…おはよう、サビ助先生』




やっぱり今朝も、布団にサビ助先生がいるんだ





・・・・・・・・。





「どうしてそうなるっ!!?」

『いやいや私が聞きたいよ石田君。なんでかな、なんでサビ助先生が入れるのかな』

「記憶がないだけで、ぬしが招き入れているのではないか?」

「なっ−…!刑部の言っていることは本当かゆのっ!?」

『それはないと思うけど…たぶん』

「また君は曖昧な返事を…昨夜は三成君が見張っていたんだろう?だったら扉以外から侵入したのさ」

『え、石田君、そんなことしてたの?』

「ぐっ…!そ、それはっ…」

「しかし効果無し。利休君には困ったものだね」




共用スペースにある大きめのテーブル。そこでお茶を飲みながら石田君と刑部さん、そして半兵衛様と一緒に作戦会議

内容はもちろん我が家一番の問題児、茶人のサビ助先生が私の部屋に侵入してくる件だ




『扉からじゃないなら窓かな。でも窓にも鍵してたはずなのに』

「そもそもあの男をここに置くことが、間違いだったのだ…!」

『………………』

「落ち着いて三成君。それは僕たちが決めることじゃない、決定権は彼女にある」

「っ……おいゆのっ!!貴様はどうしたいっ…!」

『えっと…』

「そう困らせる問いをしてやるな。なに、三成がお節介ならばそう言えばよい」

「………………」

『………………』

「…君が一番、二人を困らせているよ大谷君。ゆの君は利休君に布団に入って欲しくないんだよね?」

『そりゃまぁ…』

「だったらもう1人の彼と話してみよう。幸いなことに、利休君は1人じゃないから」

『あ…』




そうだ、いつも部屋に侵入してくるのはサビ助先生なんだ

だから−…



















『ワビ助先生、ワビ助先生、ちょっと話が…』

「っ、え、あ、す、すみませんっ!!!」

『あ……逃げられた』

「逃がすか利休っ!!ゆのの友の墓前で、金輪際こいつに近寄らないと誓わせてやるっ!!!」

「ああ、三成君が追いかけていったね」

「すみませんっ!!!」

「なっ−…!卑怯だぞ利休っ!!待て利休ーっ!!」

「…空を飛んだか」

『刑部さんなら追えるんじゃない?』

「断ろう」




…というわけで。解決のため探していたワビ助先生には空を飛んで逃げられてしまった

いくら石田君の足が速くても、空飛ぶ人を捕まえられはしないだろう。それでも追いかける彼を見送り、私たちは顔を見合わせた




「…三成君、飛び出して行ったけど平気?」

『彼には帰巣本能があるから大丈夫です…たぶん』

「そう…しかしあの慌てようからして、ゆの君の部屋への侵入はサビ助君の独断みたいだね」

『ワビ助先生とサビ助先生、立場的にどっちが上なんでしょうかね』

「さぁてな…少なくとも互いに手綱は握れておらぬようだ」

『んんー…』




彼が、いや彼らが何をしたくて私の部屋に侵入してるのかが分からない

目が覚めても隣で寝てるだけだし…いや、本当にそれだけなんだろうか




『…今の部屋が、嫌なのかな』

「ん?」

『あの部屋が、気に入らないのかも』






みんなの部屋から一番離れた、誰も近寄らない部屋が−…



























「っ、はぁっ…なんとか三成様から、逃げ切れた…!」

「なんでアイツから逃げるんだワビ助?あの女の前で、石田が己たちを斬れるわけねぇだろ」

「っ−…も、もとはと言えばお前が!ゆのさんの部屋に忍び込むのが原因じゃないかサビ助っ!!」




三成様の姿も消え、休憩のために降り立ったどこかの屋敷の屋根

そこでようやくアイツの…サビ助の声が聞こえる。何を言うかと思えばそんなこと。今回の件はお前が悪いんじゃないか




「はっ!!なに言ってんだ、悪いのはあの女だろうが」

「なっ−…!何を言うんだ、彼女は僕たちを匿ってくれているんじゃないか!それなのにお前はっ…!」

「匿う?本気で言ってるわけじゃないよなワビ助。あの女も、他の連中と変わりねぇ」

「サビ助…!」

「今は大人しい皮被ってるが、それが剥がれちまえば御前もそんなこと言えなくなるぜ…まぁ見てろっ」

「っ!!!!?」




次の瞬間、目の前に自分の長い髪が散らばった

…いや、僕じゃなくサビ助の髪だ。気づいた時には主導権が彼に奪われ、直前に吐かれた言葉にぞっとする




「っ、待てサビ助っ!!ゆのさんに何をするつもりだっ!?」

「化けの皮剥がしてやるんだっ!!御前は黙ってろ、いつも通り引っ込んでなっ!!」

「やめろサビ助っ!!彼女はっ−…!」

「石田や他の連中がどう美化してるかは知らねぇが、己は騙されやしねぇよっ!!」

「〜〜っ!!!」





お前が彼女の何に怒っているのか。それに気づいてないわけじゃない

きっと彼女に悪気はないんだ。だが、それでも僕たちは…





20160402.


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