首輪を噛み切る狂犬



 

『えーっと…?』




何がどうしてこうなった


目が覚めた時、目の前…というか布団の中に男がいた

あの佐助でも布団に潜り込むなんてしなかったのに。しかもそれが、人畜無害な利休先生だから大変だ

あーうーと唸る私の隣で眠そうな利休先生。いつもは弥生風に髪を束ねてるのに、今はバッサリとおろしてる…長いなぁ、あと睫も長い




『いやいやそういうことじゃなくて、あー、えーっと…』

「……………」

『……………』

「……………」

『……おやすみなさい』




あ、これは二度寝が一番だ

考えること全てを放棄して、私は再び目を閉じ夢に落ちる準備に取りかかる。目が覚めたら美味しい朝食と、暖かい太陽が待って−…




ドンドンッ





「起きろゆのっ!!いつまで寝ているつもりだっ!?」

『あ゛』

「ん…貴様!鍵が開いているではないかっ!!あれほど猿が締めておけとっ−…」




ガチャンッ!!




私の二度寝を阻止する石田君の大きな声。そして勢いよく部屋の扉が開かれた

あれ、おかしいなちゃんと閉めたはずなのに。いや、それよりも




「なっ……!」

「よう、朝っぱらからうるせぇ奴だな」

『………………』





さようなら、静かな1日





「千利休ぅうぅうっ!!!貴様、何をしているっ!!?」


















「…だぁから寝てたって言ってるだろ、偶然同じ布団だっただけだ」

「いけしゃあしゃあと述べるな…!ゆのの部屋で何をしていたっ!!」

「あ?本人に実況させるのが趣味か?流石は凶王様、いい趣味してるぜ」

「きぃさぁまぁあぁあっ!!!!」

「落ち着きなさい三成君、利休君もちゃんと答えなさい」




案の定、共有スペースは朝から修羅場と化した

まるで他人ごとのように座る利休先生と、その胸ぐらを掴み揺さぶる石田君。その二人の間に入る半兵衛様は、やれやれと頭を抱えていた


私の布団に、利休先生が忍び込んだ。引っ越しの翌朝から我が家は大騒ぎで、顔が真っ赤な石田君に対し慶次は何故か真っ青だ



「あの、ゆのちゃん…本当に何もなかったんだよな?何もされてない?」

『たぶん…?』

「そんな不安になる返事しないでくれよ!女の子なんだから!あ゛ーっ、えっと…!」

「まぁそう焦るな慶次、一夜の過ちなど若いうちに一度くらいは経験しておいた方がいい」

『さすが義輝様、肝が据わっていらっしゃる』

「それ、怒り狂ってる三成の目を見て言えるの…?」

「…いや遠慮しておこう」

『記憶はないけど何もなかったと思うよ。大丈夫。けどね、利休先生のイメチェンにビックリ』




そう、眠気が失せた今。私が気になるのは昨日までの利休先生と違う、てこと

髪型というよりは雰囲気が違うんだ。口調も違っててなんだか乱暴。あれだ、ワイルド、ワイルド




「…彼は昨日までの利休君とは別人だ。しかし千利休であることに間違いはない」

『別人……あ、』





そうだ、昨日…毛利さんが言っていたじゃないか



“千利休は二人いる”






『二重人格…』

「御前と話すのは初めてだったな。己はサビ助、昨日までのはワビ助…まぁ挨拶なんざ今更か」

『あ…ううん。はじめまして、おはようサビ助先生』

「普通に話すなゆのっ!!この男は貴様の…!」

「野暮な野郎だな、つまり同意の上ってことだろ?その辺は察しろよ」

「〜〜っ!!!」

『同意違う』




サビ助先生の煽ること煽ること。石田君の神経を的確に逆撫でていく。そろそろ石田君の血管がプッツンぶち切れそうだ

それを察したのか半兵衛様が、いい加減にしなさいってサビ助先生の頭を軽く叩いた




「あ゛?」

「いったいどういう風の吹き回しだい?昨日まで君は、いっさい姿を現さなかったのに」

「気まぐれだ、気まぐれ。ワビ助もこっちになれてきたみたいだからな、次は己だろ?」

「まったく…君が出るまで黙っていたが、佐助君に何と説明したらいいのか」

「別に説明なんざいらねぇよ。あの猿はどうも苦手だからな、アイツが来たらワビ助に任せる」

「ふふっ、そう。隠し続けてくれるなら僕としても助かるね」

『………………』




あ、半兵衛様が話題をそらしてくれた

佐助への文句に切り替わったサビ助先生。石田君はまだ言い足りないみたいだけど、半兵衛様の前、割り込むことはできないみたい




「ぐっ…!いいかゆの、今日から必ず鍵は閉めろ!」

『えっと閉めたはず…ううん、分かった。気をつける』

「そうだよゆのちゃんは家で唯一の女の子なんだし。これから先も、こんなことあったら…」

『大丈夫だってば。ほんと添い寝だけだよ…たぶん』

「その返事が不安なんだってば!あー、俺、心配ではげそうっ」

『慶次が…』

「はげる…」

「…そんな期待した目で見るなよ義輝、ゆのちゃん。例えだからハゲたりしな−…うわっ!?」




頭を押さえた慶次の長い髪を、義輝様と一緒にえいっと引っ張る

それを見て呆れたような石田君と、面白そうに笑う半兵衛様。そして−…





『ん?』

「……………」




じとっと横目で睨んでくるサビ助先生は、なんだか不機嫌に見えました





20160306.


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