犬猿は反発しました



 

「よく来たね幸村君、気をしっかり保つんだよ。何かあったら僕に相談していいからね」

「はっ、やはり来たか真田。貴様がいつまで耐えられるか見物よな」

「はっはっはっはっ!!!」

「某、なぜ竹中殿に心配され毛利殿に挑発され帝に爆笑されているのだろうか…!」

『それはアナタが噂の幸村君だからだよ』

「????」




またまた未来にやってきた戦国武将、幸村君と刑部さんを家に連れ帰った

彼らを見た瞬間、半兵衛様と毛利さんが二人を囲み義輝様が笑いながら肩を叩く。途中で見えなくなった慶次たちはまだ帰ってないらしい




「…ゆの、余計に混乱させるな。真田も落ち着け、直に分かる」

「三成は落ち着き過ぎであるな。われの心配など杞憂であったか」

「当然だ。半兵衛様と貴様がいれば、すぐにでも解決するだろう」

「ヒヒッ、それはまた過ぎた信頼よ」

『刑部さんの噂も聞いてるよ。宙に浮くなんて初耳だし初見だけど』

「その割にはぬしも落ち着いておる。先程は失礼した、」

『いえいえお気になさらず』




…と謝罪しつつ、この刑部さんって人は未だに訝しげな目を私に向ける

なんだか佐助に似てるかもしれない。そんなことを考えていると、パッと目の前に幸村君が飛び出してくる




「そうであったっ!!ゆの殿、改めて世話になる。よろしくお頼み申すっ!!!」

『あ…うん、あの…ごめん、もう少し声を小さくして欲しい…』

「………………」

『…ごめん、今度は聞こえない』

「なんとっ!!?」

『………………』

「ふふっ、ゆの君は幸村君みたいな子が苦手みたいだね」

「苦手と言うよりは乱されておるな」




私が困ったような顔をすると、幸村君はあわあわと慌てだし泣きそうな顔をする


あの木の下からここに来るまでに、石田君が状況説明はしてくれた

納得はできないものの私の世話になることは承諾した二人。そんな中幸村君は、私に嫌われちゃならないと勘違いしているみたい




『あのね、別に私は怒ってないし。半兵衛様や毛利さんも、幸村君がダメだから心配してるわけじゃないよ』

「う゛ぐっ……!」

『声の大きさならなんとかべ君も負けてないし。とりあえず一回落ち着いてみよう』

「す、すまぬ…未だ状況が分からぬゆえ。某はただ、大谷殿の遣いから文を受け取ったところで…」

「大谷君から?」

「ああ。数多の将が消える中、組むならば真田と思うてな。勝手をした」

「いや、僕もきっとそうしていただろう…それで?」

「うむ、突然…目の前を白い何かが横切った」

『え……』




幸村君がそう証言した瞬間、この場のみんなが顔を見合わせた

だって初めてだ。これまでトリップした彼らは、みんな揃って“気づいたら”あの木の下にいたんだから




「…刑部、貴様はどうだ?」

「白い何かは見ておらぬ。瞬きの間に気づけばこちらにいた」

「真田、貴様の見間違いではないか?」

「なっ…!見間違いではない!某、この目でしかと見たっ!!」

「ふむ…白い何か、か。ではうぬの目には何が見えた?白い何かでは分からない」

「それ、は…一瞬だったので、分かりませぬ…!」

『いいよ幸村君、気にしないで。大事な証言だもん、ありがと』

「ゆの殿っ…!」

「…ゆのは、妙に真田に優しいのだな」

「…僕からすれば、三成君に対してもこんな風に見えるけれどね」




優しい、かは分からないし幸村君みたいな子と絡んだ経験は少ない。第一印象は会話に体力が必要な子

でもなんとかべ君が言ってた。幸村君を嫌いな人はいない。それはまさにそうだと思う


だからこそ−…





ピンポーンッ

ピンポーンッ




「あ−…」

『…来た、』

「む…今の鐘は?」

「…真田、刑部、貴様らはここで待て。そして覚悟を決めろ」

「これはまた物騒な」

『んんー…』



















「やっほー、やっぱり大人しくできなかったみたいだね、ゆの」

『佐助…と慶次と利休先生となんとかべ君』

「いやぁ、片倉の旦那から連絡がきてビックリ。ゆののストーカーだってこいつら紹介されちゃったよ」

「ご、ごめん…」

「すみません…」

「すまねぇ…」

「俺様が適当に誤魔化しといたけど、明日、会社で何か聞かれるかもね」

『うん…ごめん佐助、たぶん私が勝手に外に出たせいだ』

「それもコイツらから聞いた。ほんとゆのって俺様の言うこと聞けないよねー可愛いっ」

『……うん、ごめん』




玄関に向かうと案の定、そこには佐助があの三人を連れて立っていた

…私と石田君の外出を盗み見てた三人。よく分からないけど、片倉さんに捕まっていたらしい。それを佐助が助けてくれた




「可愛い可愛いゆののためだから仕方ないけど…アンタたち、世話されてる身って自覚あるの?」

「…面目ねぇ」

「…片倉の旦那にこってり絞られてるみたいだからこの辺にしとくけど、あの人、俺様より厄介だからね」

「僕もそんな気がします…彼の感情は、まるで…!」

『利休先生?』

「っ、い、いえ…何も…!」

「あ、ところで俺様の勘だけど…また新しい奴拾った?」

『…うん』

「やっぱりーそんな予感したんだよね」




今度はどんな奴?って、靴を脱ぎながら笑う佐助

ただ私の。その傍らの石田君の様子が違うことに気づいたらしい。すっと表情を消して部屋に向かう。そして−…




ガチャンッ!!!





「ん……?」

「っ!!!!?」

「アンタが…」

「なっ、さ、さっ…!」

「………………」

「佐助ーっ!!!?」





今日一番の大声が、部屋に響いた


私たちも慌てて駆けつければ、佐助を指差し立ち尽くす幸村君が視界に入る

その表情は驚愕、そして歓喜。そりゃそうだ、だって彼にとって佐助は大事な…仲間、のはずだから




「さ、佐助っ!!お前もこちらに来ていたのだなっ!!?」

「なる程、アンタがあの…なんか厄介そうな奴だね」

「や、厄介…?何を言う佐助っ!!事情はまだよく分からぬが、共に武田へ帰る手段を探すぞっ!!」

「あー、はいはい、いいからソレ。そういうの要らない。帰ってくれるなら俺様にとってはありがたいけどさ」

「っ……佐助?」

『あの、幸村君、この佐助は…』

「“はじめまして”真田幸村。俺様、猿飛佐助っての」

「っ、し、知っておる…!」

「あっそ。あとはそっちの包帯の人もはじめましてだよね。二人か、まぁ予想の範囲内かな」

「〜〜っ!!!」




幸村君との会話を早々に切り上げ、刑部さんに視線を向けた佐助

その様子に幸村君の顔が強張る。咄嗟に隣の半兵衛様が、彼の肩に手を置いた




「…幸村君、後で僕が説明してあげるから。今は耐えてくれ」

「っ、た、竹中殿…佐助はっ…」

「気軽に佐助、佐助って呼ばれても俺様、アンタなんか知らない」

「っ−……!?」

『佐助…』

「…あ、ゆの。今晩はゆのの全快祝いで好きなものたくさん作ってあげるからねっ」




そう言って私の頭に手を乗せ笑った佐助は、わざとらしく、もう幸村君に視線を向けることはない

それが一番ダメージが大きい。半兵衛様が、慶次が、なんとかべ君が視線で佐助を責めるけど効果はなかった




「……………」

「…なる程、これは真田にとって酷よな」

「ああ…真田、あの猿は貴様の忍とは別の人間だ。気にするな」

「別…」

「………ああ」

「別…であっても、あの姿は…」

『………………』





来た時はあんなに大きな声だったのに、幸村君の声はもう聞き取るのが困難なくらい小さかった





20160220.


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