アナタにあずけるモノ



「………ゆの、」

『こんばんは佐助ー』

「やあ、お邪魔してるよ佐助君。今まで仕事だったらしいねお疲れ様」

『半兵衛様ってすごいよ、ちょっと説明したら何でも理解してくれるの』

「褒められる程のことじゃない。しかしこのお茶、なかなか良いものだね」

『確か、片倉さんって先輩が出張のお土産でくれたやつです。私、味の違いが分からないですけど』

「ふふっ、そう」

「…おい長曾我部の旦那、すっごい自然を装ってるけどこの人誰?」

「あ゛ー…新しいゆのの飼い犬だ。名前は竹中半兵衛な」

「チッ、やっぱりか」

「…改めて、お邪魔してるよ佐助君」




ここ最近、佐助のため息は急激に増えた気がする。しかし今更どうこう言う気はないのか、新しい仲間の半兵衛様もあっさり受け入れてくれたようだ


我が家に初めてやってきた石田君。その上司であり、彼に怨霊退治という大変な命令を出した張本人

彼もまた、その調査中に未来へ飛ばされてしまったらしい。例に漏れず原因不明で




「しかし、本当に僕らの知る佐助君にそっくりだ」

「その話は嫌になるくらい聞いてるよ。俺様はアンタたちを知らない、他人の空似だ」

「そう…じゃあ彼はこっちにはいないんだね」

『彼…あ、そっちの佐助が仕えてる子ですっけ?名前は、えっと…』

「真田幸村。まぁそれならいい、彼がこの佐助君を見ると落ち込んでしまいそうだから」

「…どういう意味?」

「ふふ、こっちの話だから気にしなくていいよ」

「……俺様、アンタ嫌いだわ」

「おや、出会って直ぐ嫌われてしまったようだ」

『………………』




ものすごく渋い顔で半兵衛様を睨む佐助。それに臆することなく、むしろ楽しげに笑う彼は確かに佐助とは合わないみたい

…そんな半兵衛様の隣では、さっきからずっと、大人しく石田君が控えている




『…石田君、良かったね。上司さんも来てくれて』

「良いものか…私が不甲斐ないばかりに、半兵衛様まで巻き込んでしまった…」

『えっと…ごめんね』

「そう気を落とさないでくれ三成君、僕もこの奇怪の解決に尽力するよ。それじゃ不安かな?」

「っ……滅相もないっ!!半兵衛様がいらっしゃれば百人力です!」

「ありがとう、豊臣は大谷君に任せてきたから大丈夫…な反面、意見を聞けたら頼もしいのも事実だ。そうだね例えば…」

『…なんとかべ君、なんとかべ君』

「…ゆの、アンタ、難しい話が始まる予感がすると俺に話しかけてないか?」

『うん、逃げてる』

「ゆのー、逃げるなら俺様の方においで。あと朗報持ってきたよ」

『……うん?』




半兵衛様が難しい話を始める雰囲気だから、なんとかべ君の方に逃げ込んだ。すると対抗するように近づいてきた佐助

彼の手には何かの書類。そういえば今日、来る予定じゃなかったはずなのにどうしたのかな




「じゃーん、お引っ越し用の書類一式でーす」

『え、引っ越し?』

「俺様が何とかするって言っただろ?居候の人数増えてきたし、このアパートじゃ狭いからね」

「それで引っ越しすんのか?確かに野郎ばっかりの中、ゆのを置くのは危ねぇか」

「長曾我部の旦那、よく分かってらっしゃる。そこで俺様が見つけてきたのがこんな物件」

『…部屋、いっぱい』

「もとは学生寮だった建物で、今はルームシェア用に改装されてんの。ここならプライベートもバッチリ保証されてるよ」




佐助が見せてくれた間取り図は、確かに学生寮のように部屋が並んだ三階建て

広さも十分あって、これなら大の男との同居も平気だろう。でもこんな家、私の稼ぎで家賃を払えるんだろうか




「そこは安心していいよ、俺様のコネで格安にしてもらったから。実質、光熱費頑張ればいいかなってくらい」

『え、こんな大きな家で家賃いらないの?佐助のコネ、すごいね』

「まーね、1回のデートで満足してくれる良いお姉様。ほんと単純だよねー」

『…そっか』

「ってわけで近々引っ越しだから!アンタらもしっかり働くんだよ」

「そりゃ世話になってるからな、当然だろ!荷物は任せろよ、ゆのっ」

『うん、よろしく』




煩わしい書類は俺様に任せといて、と言って笑う佐助に…私は何も返さず頷くだけだった

引っ越しなんて就職の時以来だな。会社にも届けないと。個人的には…マリアさんと直虎、あと片倉さんと政宗に教えればいいか




『…ありがとね佐助、いろいろ手配してもらって』

「いいのいいの。ゆのは全部、俺様を頼ってれば問題なし!」

『うん、』

「…それに、そろそろ“限界”だったんじゃない?」

『……………』

「…あ、そうだ。玄関に花があったけどアレって…」

『あ…うん、お墓参り用に買ったんだけど、半兵衛様に会ったからそのまま持ち帰っちゃった』




…明日、また改めて行くよ。今日はもう疲れたから寝たい

間取り図を眺めながらそう呟く私を見て、何を思ったのか佐助は目元に手を伸ばしてきた。隣でなんとかべ君が見てるにも関わらず




「…ほんとだ、隈できてるね」

『……うん』

「今日は早く寝ないとね。片付けも掃除も全部、俺様がやっとくから」

『…うん』

「じゃ、風呂の準備してくるから、入ったら寝るといいよゆの。おやすみっ」




一通り目元を撫でて満足した佐助は、そっと離れてお風呂の準備に向かう

それの背中を私と一緒に見送ったなんとかべ君が…少しだけ、イラついた声で呟いた




「…何だあれ、」

『んんー…?』

「…竹中が言った通り、真田はいなくて正解だな。いくら別人とはいえあんな猿飛は見たくねぇだろ」

『…みんな、その真田君のこと心配するんだね。どんな子?』

「ん?心配ってわけじゃねぇが…まぁアレだ、独眼竜に比べりゃ可愛げがあるやつ、か?」

『ふーん…』

「あの石田も真田のことは悪い印象持ってねぇし、家康も認める男だし、まぁアイツを嫌いな奴はいねぇなっ」

『それ、すごいね』




誰からも嫌われない人…なんてすごい子なんだ、真田君

そしてこことは違う場所で、違う佐助が仕える人。もしそんな人が現れたら私と…佐助を…




「……ゆの?」

『…眠い』

「ぁあ?佐助が言っただろ、寝るのは風呂入ってからにしろ」

『うん…分かったよお母さん』

「お母さん言うな。お母さんよりはなんとかべ君がマシだ」

『はーい、なんとかべ君』

「ぐっ…!いいか、さっさと呼び方直せよ、元親でも長曾我部でもいいからちゃんと名前を…!」

『……………』

「寝るなっ!!」






20151228.


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