優しさは時代を問わない 『私の顔に何かついてる?』 「いやぁ…ゆのちゃんもやっぱり女の子なんだなぁって。化粧って化けるんだね」 『えいやっ』 「いてっ」 朝。遅刻ギリギリな時間に家を出る私。それを見送るのは長い髪をボサボサにした寝起きの慶次だった 昨日買ってきた現代服が彼もやはり似合う。そして私の顔を見て驚く彼に、えいやっと鍵をぶん投げた。まがいなりにも乙女だぞ 『さすがに会社行く時は化粧するよ。私生活だらけてる分、職場では普通だもん』 「別に貶してない、むしろ可愛いねって言いたいんだ!」 『…そう』 「そんなゆのちゃんの髪をこうやって、こう結んで、ここをこうして…こうっ」 『あ、ちょっと慶次、何して…』 「へへっ、ゆのちゃんをもっと可愛くしてみたよ!」 じゃあね行ってらっしゃい、 そう言って見送られるのが何だかムズかゆかった 「悪霊たいさーんっ!!!!」 『ぶえっ!!…いたた、いきなりどうしたの直虎』 「ゆのにいつまでも霊を取り憑かせるわけにはいかないからな、名のある除霊師に弟子入りしてきた!私に任せろ!」 『…直虎って器用だけど不器用だよね。でも優しいのは分かった、ありがと』 始業ギリギリに席に着けば、待ちかまえていた直虎がでーいっと私の頭に何かを貼り付けてきた 除霊…てことはお札かな?どうだ、と心配そうに効果を聞いてくるから何だか効いてきた気がする 「乙女の苦労に気づけるのも乙女だけだ…必ずお前から霊を祓ってやる!もう少しだけ我慢しろっ」 『あー……うん、とりあえず、分かった』 「ああ…ところで、その頭はどうした?」 『頭?』 「…ものすごく乙女だ」 日頃から乙女を連呼する直虎が、私の頭を指差しそう表現した。はて、ものすごく乙女とは? 首を傾げていた私だけど、はっと思い出したのは朝の出来事。慶次に手際良く弄られたんだった 「似合っているな、またあの幼なじみにやられたのか?」 『えーっと…これは…』 「HA!女ってのは髪型でこうも変わるもんか、いつもよりCuteだぜっ」 『またそんな軽いこと言う。ちょっとは控えないと片倉さんに怒られるよ』 「まったくだ!キュートなんて言葉はここ一番という…時に…言って、こそ…」 『おおー…』 ・・・・・・・。 「何故お前がいるっ!!?」 『直虎、直虎、政宗は一応社長のご子息だから丁寧にね』 「関係ないっ!!学生が会社にいるのはおかしいだろっ!?今は部外者だっ!!」 「吠えるなよ相変わらずだなアンタ、オレなら顔パスだ…と言いたいがちゃんと正式なルートだ安心しろ」 いつの間にか私たちの隣に座り、くっと喉を震わす彼にフロアの乙女たちから黄色い悲鳴と視線が集まる 我らが社長のご子息、政宗。彼は本当に神出鬼没で、こうやって会社に顔を出すのも珍しくない。もちろん片倉さんが出張なんかでいない日を狙ってだ 『政宗、今日は片倉さんただの時差だから。そろそろ来ると思うよ』 「マジかよ、それよりゆの、その頭どうした?」 『乙女っぽい髪型?』 「いや禍々しい札が貼ってある」 『あ、そっちか』 「剥がすなゆの!霊に魂を乗っ取られるぞっ!!」 『……えいやっ』 「普通に剥がしたな、ゆの」 ベリッと剥がしたお札は確かに禍々しい。これで彼らを帰せたらいいのにね …きっとまだまだ、増えるんだろう。そんな予感はする 「また霊の話か、そんなもんオレは信じちゃいねぇが…ゆのは大丈夫か?」 『え?』 「顔色、かなり悪いぜ」 「やはり家に出る落ち武者が原因で…!しっかりしろゆの、霊なんかに負けるんじゃない!」 『…そっか、』 私、顔色悪いんだ そんなことを他人ごとみたいに考えた 『…慶次、』 「んー?」 『悪霊たいさーんっ』 「うわっ!!?ちょ、なになにっ!?って…お札?」 『友達にもらったの。足利様も、悪霊たいさーんっ』 「はっはっはっ!!予を祓うと言うか面白い!さあ、どんどん来るといい!」 『たいさーんっ』 「はっはっはっ!!」 「た、楽しんでるなら何よりだけど三成がすっごい怖い顔してるから片づけようか、二人とも」 直虎が部屋に貼れと渡してきたお札を使い、慶次や足利様と遊んでいた夕食後 居候組の中で一番現代生活が長い石田君は、食器洗いみたいな簡単な仕事はこなせるようになっていて。今も台所からこっちを睨んでる、怖いね 「しかし…ゆのも料理できたんだな。こっちに来てから一番の衝撃だったぜ」 『失礼な、佐助が来ない日は気まぐれで作るよなんとかべ君。今日は友達の優しさに触れて、ほんの少しやる気出た』 「明日は続かぬのであろ」 『もちろん、明日は佐助が来ますからねー』 私の私生活を牛耳る佐助であっても、さすがに来れない日だってある そんな日はほとんどお惣菜を買って帰るんだけど、気分が乗れば自炊をする時もある。それが今日だった 「いや俺も思ったよ!またゆのちゃんに作って欲しいなっ」 『…褒められてもなー』 「…まあ、あの猿の作る食事よりも幾分かはマシよな」 『佐助、毛利さんが苦手そうなのばっかり作りますもんね』 「…私もだ」 『え?』 お世辞っぽい慶次や未だ現代食に馴染めない毛利さんに続き、私の料理を褒めたのはまさかの石田君だった 台所から聞こえた声にみんなの視線が集まる。そして真っ先に口を開いたのは、茶化すみたいななんとかべ君 「へぇ…おい石田!もっとはっきり言ってやれよ、その方が嬉しいだろゆの?」 『えっと…』 「…猿の飯よりもマシだという話だ。特別、私の舌に合うわけではない」 『佐助の料理も美味しいよ、たぶん、食べたことない味だから戸惑ってるだけで』 「確かに知らぬ味ばかりで新鮮だ。このような大勢で食事をするのも珍しいから特に、か」 「…ははっ、義輝だけじゃなくてみんな新鮮だよ!」 「暢気なものよな。我らがおらぬ元の世が、どうなっているかも分からぬくせに」 「それは毛利もだろ?そりゃ心配されてるかもしれないからさ、早く帰らなきゃいけないけどね」 「………………」 慶次の言葉に押し黙った毛利さん。そりゃみんな、名のある武将さんなんだから当然だよね 台所から片付けを終えた石田君が戻ってくる。彼もそう、待たせている人がいるから 「早く戻らねば…半兵衛様からの命も、果たせていないというのに」 『…あまり深く考えても解決しないよ。暢気が一番、一番』 「…はは、そういうゆのは暢気過ぎるよな」 『それだけが取り柄だから』 うん、それしかないから 20151204. ← ×
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