朧雪


雪とアナタの境目が見えない風景は、なんと美しいのでしょう





『おぅふ…今日は特に寒いなと思ったら、雪が積もってるじゃないっすか』

「ああ、僕も驚いたよ。この辺りでは珍しいからね」

『昨日、半兵衛さんが妙に優しかったせいですかね』

「それを言うなら、昨日は奇跡的に君が可愛らしか…いや、違うか。それなら槍が降るはずだ」

『滅べイケメンっ!!』

「ふふっ、今のナキ君はいつも通りだから明日は晴れるかな」




朝一番。一面の銀世界を目の前に、そんなやり取りをする私と半兵衛さん

ああ、互いの吐く息も真っ白だ。少しだけ赤い彼の鼻、君の頬も赤いよと彼は言う




『こんな日は温かいものを食べたいっすね』

「ナキ君自身が台所に立つ許可は出せないが…そうだね、頼んでみるとしよう」

『やった、言ってみるもんです。おしるこか…お雑煮か…』

「それはいいね、君みたいに丸々とした餅を入れようか」

『丸くて悪かったっすねっ!!!』

「…今のは褒めたつもりなんだが」

『相変わらず褒め方と貶し方が紙一重っ!!もう少し分かりやすく!ワンモア!』

「そう言われてもね…」




この軍師様は日の本一賢いくせに、こういった話になると途端に言葉選びがヘタクソになる

でも至って真面目に考え込む横顔…さっきは本当に、私を褒めていたみたい。そんなの、戸惑うじゃないか


しかし、いったいどこの乙女が“餅”に例えられて喜ぶのか。同じ白でもほら、例えば…




『…貴方の髪って、この雪みたいにキラキラで綺麗ですよね』

「え……」

『朝の輝く雪もそうですけど…きっと、月の光の中の雪の方が、半兵衛さんに似合うんでしょうね』




庭に降り、足跡を残しながら積もった雪をすくいあげる

キラキラと眩しい雪。ただの真っ白が優しい色に見える雪。でもあっという間に溶けてしまう雪




『半兵衛さんにそっくりじゃありませんか?』

「僕が雪に?そう…君にはそんな風に見えるのか」

『半兵衛さん…』

「少し複雑だ、雪は冷たい。しかし悪い気もしない…僕も雪は好きだからね、ありが…」

『と、油断したところにでいやぁあっ!!!』

「!?!?!?」




ぼふあっ!!!


半兵衛さんが私の方を向いた、その瞬間!自他共に認めるその綺麗な顔目掛け…雪玉を放った

我ながらナイスコントロール。さっきまでの良い感じの雰囲気はどこへやら。ぶつかり砕けた雪玉が、ぱらぱらと彼の足元に落ちていく




『あっはー、油断大敵っすよ小姑さん!我ながら良い隙を突きましたっ』

「………ふ、ふふっ」

『………おっと?』




クツクツと笑い出した半兵衛さんが、ふらふらと庭へ降りてきた。ほらやっぱり雪が似合う、綺麗だな…と見惚れているわけにはいかない

だってほら、これはやらかしちゃったやつだ。そう気付いた時にはもう手遅れだけど




「僕としたことが…君のその性格を失念していたよ。いや見事だ、褒めてあげよう」

『褒めてる割にお顔が怖いっす。あ、ほら、雪といえば雪合戦ですから、今のはお遊びで…!』

「ああ雪合戦か、いいね朝餉前の軽い運動だ相手をしてあげようじゃないか」

『おや半兵衛さん、わし掴んだ雪をそんなにギューッとしちゃうと雪玉じゃなくて氷になっちまいますよ』

「この方が投げやすいからね、ほらっ!!」

『おっとっ!!』

「なっ…!僕の雪玉を避けるなんて…!」

『動けるインドアなめないでください!刑部さんの数珠さばきに比べたら止まって見えますっ』

「言ったね、その言葉後悔させてあげよう!」

『やられる前にやってやろうじゃありませんか!』




今度はちゃんと雪玉を作り、両手に構える半兵衛さん

そして顔ぐらい大きな雪玉を作り、両手で抱え上げる私


朝からお互いムキになって雪合戦なんて子供みたいだ。うん、これはいつもの喧嘩だ、だから…




『なに笑ってるんですか半兵衛さんっ』

「ナキ君こそ、珍しく笑ってるじゃないかっ」

『その綺麗なお顔に雪玉ぶつけるのが楽しいだけでーすっ』

「僕も君を負かして泣かせる算段を立てるのが楽しいだけさっ」




決してアナタと遊べて楽しいなんて、

キミには言ってあげないからね






 




『ずびっ……暑くて寒くて頭痛いでござる…三成君の手、冷たい』

「…熱だな。朝一番、薄着で雪の中にいるからだ」

「ナキはわれらよりも軟弱ゆえ……ぬしがいながらどうしてこうなった、賢人よ」

「…………すまない」





20180113.
賢人さまと雪合戦


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