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『…………』

「おや、緊張しているのかねホトトギス?」

『え、と…』

「すまないね、ホトトギスは君の神聖なる気に恐縮しているようだ」

「仕方ありませんよ、ねぇ、姫御前?」

『・・・・・』




目の前にめちゃめちゃ可愛い美少女が居ます





数日前―…




「ところでホトトギス、君はどうやって大阪へ行くつもりかね」

『へ?』

「いや、海を渡るのは必須だが…四国と中国、どちらを通るつもりだ?」

『あ゛ー…』



松永さんや小太郎くんと九州を出る途中、思い出したように尋ねられた

確かにその二択だろう。元就さんか元親か



『うーん…やっぱり元親に見つかるのはまずいよね』

「………(謎)」

『人魚って指名手配されてるからね、いや、足はしっかりあるけどさ』



以前、一度だけ見せてもらったんだけど…元親は捕縛専用の技を持ってるらしい

チートだよねアレ、さすがに見つかったら逃げ切れる自信ないよ!



「では中国かね?今のところ、毛利は君を探していないようだが」

『正直…動きのない元就さんほど怖いものはないです』

「…………(笑)」

『結局、どっちも危ない橋なんですよね』

「では間をとるか」

『………間?』




瀬戸海を渡るとしよう







『…で、なんで伊予軍の船に乗っちゃってるわけなんですかっ!!?』

「間違えてしまったようだ、すまないねホトトギス」

『う・そ・だ!わざと乗りましたよね松永さん!』



小太郎くんも見当たらないし、軍の方々に囲まれてるし、美少女はキラキラ眩しいし!

ああ…幸先から怪しい雲行きです兄さん




『だいたい、私はホトトギスじゃなく雪子で…』

「ほぅ…君は指名手配されている身分で、堂々と名乗るつもりか?」

『う゛……』

「豊臣の姫、土佐の人魚、奥州の天女と名乗り出るつもりか?ん?」

『すみませんでしたぁっ!!』



怖いです松永さん。穏やかに笑って迫らないでください威圧感すごい

ヒソヒソこんなやり取りをする私たちを不思議そうに彼女は眺めていた




「ホトトギス…?」

『え、えっと…』

「ホトトギス、きちんと返事をせねば失礼だろう?」

『…………』



いやいや無理です。さすがにこの名前は無理ですってば騙せませんよ

ほら、美少女も疑った顔し―…




「素敵な名前ですね!」

『………へ?』

「私、鶴姫と申します!鶴とホトトギス…なんだか運命も感じちゃいますよ!」

『あ、はは…恐縮です』





まさか信じちゃいますか鶴姫ちゃん。振り向けば松永さん渾身のどや顔が見えた。ちょ、純真な少女騙して楽しいですかコノヤロー




『…すみません、間違って乗ってしまったようで。適当な島に落としてください』

「かまいません!女の子が護衛一人で渡るには物騒な海になってしまいましたから」

「………は?」

『…あは、ですって松永さん』



護衛、のフレーズに今度は松永さんが固まった。鶴姫ちゃんには彼が従者に見えたらしい

実際は大将さんだけど松永久秀ですとは紹介できず…いいでしょう、そういう立ち位置でいきます




「なんという…私が君の下につくということかね?」

『ほらほら、松永久秀とは名乗れないでしょう?演技ですよ、演技っ』

「・・・・・」

『ごめんなさいごめんなさい指パッチンは止めてくださいお願いしますっ』



指を構えて見下ろしてくる彼に、必死に土下座して謝った。すぐ爆発しようとします苛烈おじ様

仲良しさんですねー、と言う鶴姫ちゃんには苦笑を贈ろう



「私も船の皆さんとは仲良しですが、ホトトギスちゃんも負けてませんね」

『ま、まぁ、今は頼れる人が彼しかいないもので…(小太郎くんどこ行ったのっ!!?)』

「え…ホトトギスちゃんは…」

『へ?』

「故郷が無いんですか?」

『…………』



鶴姫ちゃんのクリッとした目が揺れた。急に表情が沈んだ彼女に戸惑い…隣の松永さんを見る

彼は黙っていた。そして鶴姫ちゃんに視線を向ける。好きに答えろ、そういうことだろうか?




『え、と…故郷は捨て…いや、違うかな。ここには無いんです』

「無いんですか?まさか、…!」

『?』

「今は知人のいる大阪を目指しているのでね。ホトトギスの出生は聞かぬのが君のためだ」

『ちょ、その言い方じゃ―…!』



故郷はない、従者つきで知人の元へ、出生は聞くな…まるで国から逃げてきたみたいじゃないですか

鶴姫ちゃんの表情も悲しげになる、ほら勘違いされた!



「許せません!ホトトギスちゃんの故郷を奪う輩がいるなんてっ」

『い、いや、違うの鶴姫ちゃん!私は別にっ…』

「皆まで言わずとも解ります!私も故郷を守るために立ち上がりました」

『っ―……!』

「ここが私の故郷なんです!」



バッと両手を広げた鶴姫ちゃん。ここは瀬戸の海

その真ん中で彼女は立ち上がった。鶴姫…ぼんやりとだが私は彼女も知っている



「戦の火がここまで飛んできている、それを払うのが私の使命です」

『鶴姫ちゃんも戦うの?』

「皆さんが居ます!そしてあの方も…怖いものなんかありませんっ」

『………』



この子の決意に気圧された

動かない私の顔を覗き込む松永さん、そして眉間に深いシワが刻まれる



「…なんて顔をしているんだね、ホトトギス」

『…………』

「何故…君は笑っている?」

『負けてられない…そう思ったからですよ』



彼女の決意はすごい。その小さな体で戦場に身を投じている

でも私だって、彼女と同じ気持ちでこっちの世界に来たんだ。負けてられない、私も変えてみせる



『鶴姫ちゃんにヤル気を分けてもらいました!私もこの手で掴み取りますよ平和な世!』

「あーっ!!それは私が先に達成するんですよホトトギスちゃん!」

「どちらにも無理だと思うがね」

『酷いです松永さん!』

「じゃあ見ててください!私たちの活躍を!」

「すまないが、子供の世話はホトトギスだけで手一杯なのでね」



子供じゃないです成人です!そう松永さんに詰め寄ろうとした瞬間、彼の視線が海へと向けられた

そして、肩を抱かれ―…



「伏せたまえっ」

『え…きゃあっ!!?』

「きゃあっ!!?」

「姫御前っ!!」




ドォンッ!!!


近くで聞こえた爆発音。噴きあがる水柱、海水が私たちに降り注いでくる

今のは砲撃だろうか?顔を上げようとするが、それは松永さんによって妨げられた



「海賊だっ!!!」

『か、海賊っ!!?』

「ふ、船は無事ですかっ!!?」

「ええ、直撃は免れたようです…応戦しますか?」

「もちろん!私の海を荒らすなら容赦はしませんよっ」



拳を握り言いきった鶴姫ちゃんが私たちを見る

さっきまでの彼女と違う、キリッとした逞しい顔



「お客様を小舟へ!敵船とは反対方向へ逃げてもらいます」

『え…つ、鶴姫ちゃんはっ!!?』

「戦います、大丈夫!私にはあの方の加護と…頼もしい皆さんがいますっ」

『鶴姫ちゃん…』

「ホトトギス、大阪は遠いが陸には無事に着けるだろう。急ぎたまえ」

『…………』



また大きな音がする。戦場に残ったって私は何もできない

どうか…無事でね、鶴姫ちゃん




「ホトトギスちゃんにも…旋風の加護がありますように」

『鶴姫ちゃんにも、私の兄さんの加護を分けるよ!今度はゆっくり話したいな』

「私もです!」

「ホトトギスっ」

『はい!…て、きゃあっ!!?』

「ホトトギスちゃんっ!!?」



松永さんに担がれたと思ったら、思いきり海へと放り投げられた

ああ、空と海が青い…て違う!落ちる!人魚じゃないから華麗に泳げませんよっ!?



『〜〜っ!!!』

「ホトトギスちゃ―…あっ!!!」

『あ…』

「…………」



重力に従い体が傾いた瞬間、黒い羽と旋風が私を受け止め小舟に着地する

見上げれば黒と赤の風



『小太郎くんっ!!』

「宵闇の羽の方っ!!!」

「…………」

「やれやれ、遅い御登場だね風魔。まぁホトトギスを受け取ったならよしとしよう…行こうか」

『あ…』



こちらを見下ろす鶴姫ちゃんに手を振るけど…こっちは見てない

高速で舟を漕ぐ小太郎くんばかり見つめていた。え、知り合いなのお二人さん


とにかく、陸は見えていた。海賊は彼女たちに任せ、そっちに…




『っ……え…?』

「どうした?」

『…いえ、何でもありません』





鶴姫ちゃんの船の向こう、一瞬だけ見えた相手の帆

そこに描かれていたのは…





『…七つ方喰(かたばみ)』









20130421.
鶴と梟と宵闇の羽とホトトギス

そして華麗にスルーされるアニキ←





mae tugi

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