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『さぁ!天下分け目にレッツゴーです黒田さん!』

「ほ…本気でお前さんも行くのか?」

『もちろん!逃げ足はタケちゃんに鍛えてもらったんで自信があります!』

「そ、そこは小生が何とかしてやるが…戦だぞ?」



穴蔵の出口へと皆で向かう。すでに黒田軍の進軍って様子なんだけど彼の表情は晴れていない

心配そうに私を見る。優しいです黒田さん



『そりゃ目を背けたい場面には合うと思います。耐える自信ないです』

「それならここで、大人しく待てんのか?」

『…待てません』




それじゃ、ここに来た意味がない。彼らを選んだ意味がない

私の望まない最悪の結末から、少しでも時代を動かすために。歴史を知る私だからできること



『黒田さんにはご迷惑おかけしてすみません…』

「い、いや、小生も、お前さんが一緒に行きたい言った時はう、嬉しかったが…」

『?』

「官兵衛さん、いちゃつくのは外に出てからにしてくれないか?」

「雪子ちゃん、官兵衛さんばっかりにかまわずこっちにも来てくれよ」

「こら!勝手に雪子に触るな!」

『あはは…』




聞いていた通り、彼らは黒田さんが大好きなんだなぁ。そして黒田さんも

賑やかな皆に思わず笑ってしまう。私は大丈夫、きっと皆を―…




グラッ




『え……』



一瞬、力が抜けて体が傾く

すぐに持ち直したけど今の感覚には覚えがあった。ずいぶん昔に感じるあの日と同じ

急に立ち止まった私に黒田さんが振り向いた



「雪子?どうした、気分が悪いか?」

『っ……、…』

「ん?」

『行っちゃ…ダメです…!』

「は?何言ってるんだ、もうそこに出口があるんだぞ?」

『〜〜っ!!!』







― 花火のにおい




『皆を止めてください黒田さんっ!!!』

「っ、お前ら止まれっ!!!」



私の様子に何か感じたのか、黒田さん急いで前を歩く人達を止めた

何事かと振り向く彼ら、その背後で―…




ドォンッ!!!




『きゃあっ!!?』

「雪子っ!!!」

「うわぁっ!!?」



爆発音と共に洞窟が激しく揺れた。一気に流れ込んでくる煙と巻き上がる石や土

黒田さんが庇ってくれたから怪我はない、皆も無事だろうか



「大丈夫か雪子!」

『はいっ…皆さんは?』

「平気かっ!!?」

「こっちは大丈夫だ!」

『…………』



噎せながら呻きながら口々に返事を返してくれる

よかった…大きな怪我はないみたい



『敵襲、ですか?』

「こんな所にか?くそっ、小生が出陣しようって時に…!」

『…………』



確かに臭った花火…ううん、火薬の臭い。この臭い、私は初めてじゃなかった






「ほぅ…今のを感づくとは。さすがは豊臣に仕えた二兵衛の片割れだ」

『っ―……!』

「お前さんの仕業か…?」

「その先見の力に感服するよ、いや、卿ではなく隣の傾国姫に贈るべき賛辞かね?」



ゆっくりと向けられた手を見つめると酷い寒気に襲われた

怖い、息をのむのは私だけではなく、穴蔵の皆さんや黒田さんまで目の前の彼に恐怖を与えられる。彼は―…







「松永…久秀―…!」

『え…ま、松永久秀っ!!?』

「私を知っているのかね傾国姫?」



黒と白のコントラストが映えるその姿。シルエットは独特で一見、落ち着いた紳士にも見える

けど私を値踏みするように向ける視線に体は動かない。まるで暗闇の夢の中で…私を見下ろした“あの人”のように


一瞬、影が重なった




「君自身に用があるわけではないのだよ」

『っ!!!?』

「一度は天下を手中に治め凶王という火種を残し逝った太閤…その妹君がこの期に及んで御登場とは実に奇妙だと思わないかね?」



…この人は、私のことを知っている?何故?どこまで?


私は―…




「太閤の妹なんざ小生は興味ないね!捕らえたところでどうする、凶王への供物にでもするか?」

『く、黒田さんっ!!?』

「…………」

「生憎、ここには小生の恩人しか居ないんでね。大人しく退いてもらおうか!」



ぐっと私を押し退け一歩前に出た黒田さん。それを冷たく、さも不快だと言いたげに松永さんは睨む

周りの人達もジリリと身構えた



「…弱ったね、私は卿と争うために来たのではないのだが」

「じゃあ大人しく帰ってもらうぞ!雪子、小生の側から離れるなよっ」

『はい!』

「たった独りで小生らに喧嘩売ったこと…後悔させてやる!」

「…やれやれ、困ったものだ」

『え…』





誰が独りだと、言ったかね

そう彼が呟いた瞬間、私たちの間を強い風が吹き抜け土埃が再び舞い上がる

それよりも高く上がった私の体



『きゃあっ!!!?』

「雪子っ!!!」



黒田さんの手が届くよりも早く、私がたどり着いたのは今さっき出てきた洞窟の上

驚いた表情でこちらを見上げる皆、満足そうに笑む松永さん、彼らの視線は私の背後にある


しっかりと、私を抱き上げているのは―…






「さすがは伝説、仕事が早くて助か…」

『小太郎くぅぅうぅぅんっ!!!!!』

「「………は?」」

「…………」



がっしりと、しっかりと、私は小太郎くんに抱きついた!真っ黒な姿、表情を隠し感情も見えない

それでも彼は、あの小太郎くんで間違いないんだ



『よかった!こっちに無事に戻ってたんだね!』

「………(笑)、(喜)」

『気分カードも!私も会えて嬉しいよっ!!』

「「・・・・」」



感動の再会を果たす私たちを見ながら固まっている皆さま方。私たちは完全にアウェイである

特に松永さん、その顔はせっかくの渋さが台無しですよ



「卿は傾国姫と知り合いだったのかね?」

「…………」

『知り合いだなんて薄っぺらくないです!』



なんせ同じ屋根の下で暮らしてましたから。そんなことは言えやしないが何という心強い味方の参上

私が再会の余韻を味わっている間に、小太郎くんは私をしっかり抱え直す。そして…




「…………」

『え、ちょ、きゃあっ!!!?』

「雪子ーっ!!!?」



黒田さんの叫び声を遠くに感じながら、私の視界は高速で流れていった

耳元で風を切る音…速い、さすが伝説の忍だね!




『………あれ?』





…私、拐われた?





20130414.
梟と伝説と傾国姫

…なぜじゃ





mae tugi

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