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『…………』

「雪子!いいかげん顔を上げろ!」

「別に取って食いやしないからさ、大丈夫だよ、ね?」

『む、むむ無理です心の準備というやつが―…!』

「ふふふ」

『っ!!!!』

「ずいぶん おもしろいきゃくじん ですね」

『も…申し訳ないです』



チラリと顔を上げたその先で、優雅に微笑むその人は居た

他にも増して不思議な衣装はこの際気にしない。それよりも白い御仁の雰囲気に気圧されていた


軍神…上杉謙信公




「わたくしに はなしがあって きたのでしょう?それでは きこうにもきけませんよ」

『はっ!!そうでした!』

「ふ、ふふふ」



私がツボに入ったのか謙信さんはお腹を抱えて笑いだした。爆笑も美しいとか何なんですか

謙信さんのそれが珍しいのか、かすがさんはワタワタ慌て出すし。前田さんは相変わらず私を窺ってるし


…気を引きしめろ!大事な話をするんだから



『…お話はかすがさんから聞いているかもしれませんし、越後にも噂が伝わってると思います』

「…とよとみのひめ、ですね?」

「っ―……」

『はい』




西の大将、石田三成が探す豊臣秀吉の妹

それだけじゃない




『西海の人魚、奥州の天女も私のことです』

「なぜ…にがむしを かみつぶしたような かおをしているのです?」

『…この自己紹介が屈辱で仕方ないからです、政宗さんと元親許すまじ!』

「ふふふ、ずいぶんないわれようですね。かすが、おもしろいこをつれてきてくれました」

「は、はいっ…!」



突然名前を呼ばれ恥じらう彼女。あ…恋する乙女ですね可愛いな

夢で会った時もそうだけど、かすがさんは本当に謙信さんが好きなんだな…いや、慕ってるって言葉がしっくりくる



「では、あなぐらのはなよめも あなたのことですか?」

『…………はい?』

「おや?ちがいましたか」

『あ、はい、それは初耳です』



穴蔵…と聞いて思い浮かべるのは黒田さん。だけど、彼とそんな噂が出るなんてまずないだろう

うん、私じゃない




「しかし…つたのもんのかごもあるとは、あなどれませんね とよとみのひめ」

『いやぁ、この印籠は成り行きと言いますか事故と言いますか…』



むしろこれ、かすがさんが居るから必要ないんじゃない?

知り合いだから身分証明必要ないし、おかげで前田さんに警戒されちゃってるし。私が豊臣の姫だって名乗ってからは特にだ



「…………」

『に、睨まないでくださいよ前田さん。越後を襲撃しに来たわけじゃないですってば』

「…じゃあ、豊臣のお姫さんが何しに来たってんだい?」

『もうすぐ来る大きな戦の時まで私を匿ってください。その時が来ればすぐに去ります!』

「っ!!!!」

『こちらを巻き込んだりしませんから!』



もし私のせいで越後に不利が起こるなら、直ぐにでもこの地から出ていくつもりだ

いや―…




『もし危険になったら私を差し出してください!この名前だけには無駄にブランド…いえ、価値があります』

「雪子っ!?何を言うんだ!」

『謙信さんの…悪いようにはならないでしょう?』

「これはこれは、やはり つたのもん…いえ、はおうのいもうとというべきでしょうね」

『…………』




ふむ、と何か考える仕草を見せた謙信さん。自分を敵に差し出してもいいなんて、怪しまれただろうか?

でも覚悟だけはしてる。それに…この人は、あの上杉謙信だ




「とよとみのひめ…あなたはかんちがいをしている」

『…………』

「わざわざなのらずとも、えちごはあなたをこばみはしない」

『え…?』

「ふふふ、かすがのゆうじんを まねくのにりゆうはいりませんよ」

『っ―…じゃ、じゃあ置いていただけるんですねっ!!?』

「謙信っ!!!」

「けいじ…あなたも たちばはかわらぬでしょう?いじわるをいうんじゃありません」

「ご、ごめん…って違うっ!!この子は秀吉の妹じゃ…!」

『秀吉さん?』

「っ!!!!」



ふと彼の口から出た名。最後に会ったのはもうだいぶ遠くに感じる

前田さんは、秀吉さんをよく知っているのだろうか…ん?



『そう言えば…秀吉さんとの会話の中で、何度か慶次って出てきたような』

「〜〜っ!!!!」

『あ……』




私の言葉を聞いた瞬間、前田さんは部屋から飛び出して行った…これは…触れちゃいけない話だったのかな?




「慶次っ!?…はぁ、気にするな雪子」

『で、でも…』

「いいんだ、放っておいてくれ…お前があの男の妹というなら尚更だ」

『いえ、実は秀吉さんの妹という話も…ああ、いや、何でもないです』



未来人とはいえ詳しい話はタブー。謙信さんもせっかく気にしないと言ってくれてるんだ



『でも実は匿ってくれると解ってて言ってたんですよね、差し出してもいいとか何とか』

「は?」

『だって、かすがさんがこんなに慕う謙信さんですもん』




かすがさんの話を聞いてたから、素敵な人だって分かってました

そう言ったら耳までブワッと赤くなるかすがさん。そしてクスクスと笑い出す謙信さん



「おやおや…わたくしのつるぎは なんといっていたのでしょうか」

『あ。もし大事な人と離れなきゃいけなくなったらって質問に―…』

「あ゛ーっ!!!あ゛ぁーっ!!!!」

「かすが、ひめいにもなってませんよ」

『かすがさん、照れなくてもいいじゃないですか』

「お前は馬鹿かっ!!?」

『いたっ!!?』





どうやら、強い味方ができたようです



関ヶ原のその日まで―…






20130529.
風来坊が珍しく警戒モードです

いやはやけんしんさまむずかしい





mae tugi

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