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「…戻ったか風魔、大阪への道はどうだった?」
「………(フルフルッ)」
「そうか…三河と甲斐も同じだろう、毛利の手の者が先回りしている」
「………(コクッ)」
「…だそうだよ、どうするホトトギス?」
『…………』
「ホトトギス、」
『えっ!!?あ、す、すみません…どう、しましょうか、あはは…』
「…………」
小早川領からずっと離れた林の中。そこで私たちは動けないでいた
背後には毛利軍、そして大阪への道にも…私を捕まえようと待ち構えていたんだ
「………(困)、(哀)?」
「ホトトギス、君がそれでは風魔が困っている」
『ごめん、なさい…でも、かなり、堪えました…』
「…………」
『元就さん…』
生死は問わない、その言葉が頭の中をぐるぐる回っている。彼は私を殺すつもりで探しているのだろうか
その事実は、私の覚悟も何もかもを砕くには十分すぎる威力だった
『私が言うことをきかなかったから、見捨てられちゃったんでしょうか…』
「言うことを?」
『元就さんに言われたんです。貴様は残れ、と』
こっちの時代に来てはいけない、きっと敗者に寄り添い最期を共にするから
確かに私は敗者…西の三成のもとへ行こうとしていた。戦を動かそうとしていた。それが元就さんの邪魔となったのだろうか
「ふむ…おかしな話だ」
『ですよね、私みたいなただの女子大生が調子のって…』
「いや、君がおかしいのは知っている。おかしいのは毛利だ」
『ちょ、おかしいって何ですかっ!?確かに自分で言いましたけ…ど…へ?』
「ん?」
『元就さんが…おかしいですか?』
「ああ…私の知る限りあの男は、君のような女性の身を按ずるとは思えないのだが」
『…………』
だって、元就さんは優しい人だった。普段口うるさいのも私を心配してたから
別れの時の最後まで、私が一人で生きていけるか不安だって言って…
『っ…あ、れ…?』
「…………?」
「どうした、ホトトギス」
『あ…最後、に…別れる前に…』
元就さんが言っていたこと
『我を信じるのであろう…』
「は?」
『そう、元就さんに問われました。もちろん私は信じてます、元就さんのこと』
「…………」
…貴方を信じてます
ハッと立ち上がった私は松永さんに詰め寄った!たじろぐ松永さん、そう言えば金吾くんの城で盗み聞きした会話…!
『松永さん、あの、毛利軍の人が言ってましたよね?女とその従者の生死は問わないって』
「あ、ああ」
『元就さんは…私が松永さんや小太郎くんと一緒に居ることを知ってるんですね?』
「っ…確かに、妙な話だ。となると…」
『もしかして私が金吾くんの所に居るのも知ってたんじゃないですか?』
政宗さんや三成、元親は私を探していた。なのに元就さんはこのタイミングで動き出した
まるで私を待っていたように。わざと私に御触れを聞かせたんじゃないか。そして気になるのは道を塞いでいる軍の人たち
『大阪、甲斐、三河…そこへの道は塞がれてるけど、他は大丈夫なんだよね小太郎くん』
「………(コクッ)」
『後ろには毛利軍…何処かに誘導されてる気がします』
「君は…いや、私が侮っていただけか。なかなか軍師に向いているのではないかね?」
『あはは、なんせ秀吉さんの妹ですから!幼なじみは天才軍師ですっ』
そして元就さんはこうも言った。我の示す通りに動け…と
考えるんだ、私。元就さんは私にどう動いて欲しい?私はどうすればいい?
「まずは毛利が君の進路を塞ぐ理由から考えようか」
『は、はい!三河…家康くんは東軍ですから何となく解ります、わざわざ敵地に向かわせはしませんよ』
「甲斐は武田信玄が病に伏せている…東に近い地でもあるからね、豊臣の姫を匿うには危険な場所だろう」
『う゛…で、でも何故、大阪もダメなんでしょうか?』
いや、むしろ私の身を心配してくれているなら…元就さんは何故、自国で捕らえないのだろう?
生死は問わない、それは私や小太郎くんに「捕まるな」と言っているんだと思う
『毛利軍や石田軍がダメなら…もう西に安全な場所は無いと思いますよ?』
「…………(謎)」
『え?あ、うん、まぁ、私は関ヶ原の結末を知ってるしね』
「ほぅ…そう言えばそうだったねホトトギス。君は未来を知っていたか」
『はい、この戦は金吾くん…小早川秀秋が東軍に寝返ることでガラリと戦局が変わってしまいます』
彼をきっかけに次々と西の人たちが東にまわる。そして西は敗者に…石田軍はもちろん、毛利軍も…負け…に…あれ?
『…………』
「ホトトギス?何か思いついたのかね?」
『これは…私たちの時代では、常識なんです』
「…………」
『徳川家康が、勝つんです。そして長い長い江戸時代が始まる…』
徳川歴代将軍、真ん中は覚えにくいなーっと前田と話した高校時代
いや、小学生でも徳川家康は知ってる。江戸時代も知ってる。それくらい常識的な日本史だ、そう、常識…!
「ホトトギス…顔が真っ青だ」
『ど…どうしましょう…!』
「………(困)、(謎)?」
『元就さんが過ごしてたのは、私の兄さんの部屋でしたっ!!』
私が歴史好きなのは兄さんの影響だった。部屋の本棚にはたくさんの本
そして元就さんは大学の図書館も行き来していた、教育テレビもよく見ていた
だったら…!
『元就さんは…この戦の結末を、知ってます…!』
「は…?」
『元就さんは西軍が負けることを知ってます!だから私を西から遠ざけようとしてるんです!』
でも元就さんは、西の負けを知っていても負けるつもりはないだろう
戦の結末を変えようとしているのは彼も同じだ
『っ―…も、元就さんは金吾くんの城に向かってたんですよねっ!!?』
「君を捕らえるよう命じにね…しかし、それだけではなさそうだ」
『〜〜っ!!どうしよう、まさか、こんなことになるなんて…!』
彼は金吾くんの裏切りを阻止するつもりだ…全力で
ラスボスが元就さん、とか。勝てない勝負を前に私のライフはレッドゾーンに突入していた
20130504.
元就さんはやっぱり黒幕です
次回は久々に元就さんが御登場^^
mae tugi