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「失礼する。兎殿、少し宜しいか」

『幸村さん?はい、どうぞ』




珍しい訪問だった

私の目に少しの光が戻ってしばらくたった頃。普段は昼間に訪ねてくる幸村さんがやって来たのは夜更け

何かあったのか…それとも、久しく会っていない夜の私を見たかったのか




「真田の忍からの情報で…織田の軍に何かしらの動きがあったらしい」

『織田…ですか』

「う、うむ!それで某もお館様と共にそちらへ。もしかすると…戦となるやもしれぬ」

『では、しばらく屋敷をあけるのですか?』

「ああ…心配には及ばぬ。兎殿の御身は守る、だが…」

『ふふ、ご安心ください幸村さん。私が織田の忍だったからといって…惜しむ家族は居ませんよ』

「っ―…、」




優しい人、

戦となれば自分が斬り捨てる者の中に私の親兄弟、友、大切な人が居るかもしれないと思っている

そっと伸ばした手が幸村さんの頬に触れた



『一族より何より、幸村さんが御無事なら私はかまいません』

「だがっ…兎殿は優しい故、俺の知らぬ間に心を痛めるかもしれない」

『幸村さん…』

「…………」

『では、帰ってきた後に戦の話はしないでくださいな』

「っ―…!」



貴方の誉、活躍を聞くのも楽しいでしょう

しかし貴方が不安に思うなら何を、誰を斬ったなどと話さないでくださいませ



『代わりに風景を…戦に向かう途中の花や山や村の様子を私にお聞かせください』

「そ、それで良いのか?」

『はい、土産話を楽しみに…貴方様の帰りを待ちわびております』

「っ…兎殿!」

『はい?』



名を呼ばれたから答えれば、ぐっと息を詰まらせた幸村さん

私の肩に添えていた手に力が入る。ああ、これは…と思えば小さく笑ってしまう自分




『幸村さん…貴方は私の最愛です』

「っ―…お、俺の…!」

『…………』

「っ………」






そなたは俺の最愛だ





ただ押し付けるだけのそれも、私には幸福でしかなかったのです

 



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