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「兎くん、」




あの方は、私に人を愛せる幸福を教えてくれた

私は確かに人の心があったのです。私はあの方を愛していました





「兎殿!」




あの人は、どんな私でも愛してくれた

私は確かにあの人の側にいました。私はあの人を愛しています



そして―…





「兎っ!!」




それは全て、確かでした

それに何も偽りなどなく、私は一人ぼっちじゃない


私は光の中にいた



それを教えてくれたのは、彼でした





『っ―……ぅ…!』

「兎っ!!?」




癒えたはず背中の傷が酷く痛み出した気がした。その痛みに崩れ落ちる私

それは傷口が開いた、ヒリヒリ燃えるような痛みではない。あの時の、あの瞬間の中に私はもう一度いるんだ





『っ………さん…』





私は、何一つ後悔していない


それは薄れる意識の中で何度も私の名前を呼ぶ彼が、証明してくれたから








遠退いた意識の中に浮かんだのは、私がまだ、豊臣に身を置く前の記憶





「兎…お前は戦忍に向きません」

『え、色で働けと?』

「ふ、ふふ…食い気なお前にそれは尚更無理でしょうね」

『じゃあ光秀さんは私からお仕事を奪うのかしらっ』




酷いご主人っとそっぽを向く私に、彼はククッと喉で笑った


そこは戦場の真っ只中。同じ一族の忍たちは敵を追っていったというのに、私は暢気に空を見上げている

その傍らには主。彼もまた、空を見上げふっと息を吐いた




「いえ…お前は所詮、飼われなければ生きていけません」

『…そう、かも。それが楽なんだと思う』

「ええ、私もそれが悪いとは言いませんが…しかし飼われたモノは、その主人に似るという」

『そうかな…私、光秀さんに似てる?』

「いいえ、今のお前は自由に生きています。いつか私以外に飼われたならば…どうなってしまうか」

『どうなれるのかなぁ』

「……兎?」





私は、変わることができるのだろうか。手を伸ばした夜空には幾つもの星が瞬いている


私は…その中の一つとして、違った光を放てるのかな



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