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目にしたくない悲しい現実を直視することはそれなりの恐怖があるものだと思う。
だがそれを真正面から受け止めようとする強さが彼女にはあった。
坑道の出口付近で俺とカイエンとマッシュはユカの祈る姿を見ながらそんな事を話していた。

次の日、気を失っていたロックの意識が戻ったと連絡を受け、部屋にいる相手の様子を窺おうとしたのだが物凄い勢いで外へと出て行こうとするロック。どうにかそれを押し留め、取るべき行動を端的に伝えた。

「まぁ待て。帝国はまた、このナルシェの幻獣を狙ってくるかもしれん」

幻獣の存在やリターナーのリーダーであるバナン様をまた狙ってくる可能性は大いにあった。後ろをとられ自分達が劣勢に立たされる事態は避けなければならないだろう。
ティナを助けに行く者、ナルシェを守る者を決めて行動するのが一番と考えた。

その呼びかけに一番最初に手を挙げたのはロックだった。
ならば、セリスも同様に共に行くのが賢明だろう。

我々に組するセリスだが、元帝国軍将軍という肩書きはあまりに影響力がある。
ナルシェの住民達も不安や怒りを抱く可能性もないとは言い切れない。

その後、カイエンとガウはここに残ることを告げ、あとはマッシュとユカの2人がどうするかだけだった。

ユカがカイエン達の方を一瞬見た後、ゆっくりと手を挙げてみせる。
するとそれに続くようにマッシュが手を挙げた。

「俺達も一緒に行っていいか?兄貴」

弟の言葉に驚いた様子を見せるユカ。
この反応を見る限り、もしかするとマッシュの独断なのかも知れない。

相手に有無を言わさず断行するには弟なりの思いがあると踏んで、気持ちを汲んでやることにした。

「ちゃんと彼女のサポートは出来るのか?」

念のため確認すれば大きな声で“勿論だ!”と言い切るマッシュ。
威勢のいい返事を受け、2人をティナの捜索へと加えた。

それぞれの行動を割り振った後、各々が出発の準備をし始める。
すると、ユカがマッシュの腕を掴み外へ連れ出していく姿が見えた。一悶着起きそうな予感はするが、マッシュが無事解決できることを願うことにする。

それから暫くして家のドアが開くが、戻ってきたのはユカだけだった。
程なくしてマッシュが帰ってきたけれど、あからさまに様子がおかしいようだ。

やはり男というのはどう足掻いても女性には敵わないのだろう。
今後2人の関係性がどのように変化していくのか、陰ながら見守っていこうと考えながら私は荷造りを進めた。



数時間後、準備を終えた私達4人はナルシェの町の入り口でカイエンとガウに見送られながら出発を開始した。

凍える大地を進み緑の草地を抜け、目の前に広がる広大な砂漠地帯を時間をかけて歩く。
チョコボがいればあっという間の距離だが、人間の足ではこうも鈍足になる。いつかあの町にもチョコボ屋を建てるべきだなと思ったのは言うまでもなかった。

長い距離を歩き、ようやく辿り着いた我が城。
その建物を見た瞬間、ついさっきまで静かだったユカが子どものようにはしゃぎ始めた。

あれは何、それは何と質問に質問を重ね、黙っているマッシュに話しかけ続ける彼女。
だが、あまりの騒がしさにマッシュも観念したのか色々と話し始める。

2人の様子に和んだ後、扉をくぐれば従者達が出迎えてくれる。
そして、弟の姿を見たものたちが嬉しそうに声を掛けていた。

城に入って程なくすると、懐かしさを理由にマッシュはユカと一緒に城内の探検に出かけてしまった。仕方がない奴だと思いながら、自分はコーリンゲンへ向けて出発の準備に取り掛かることにした。

エンジンの点検や動作確認をしたあと、全員に玉座のある広間に集まってもらう。今からフィガロを動かしコーリンゲンまで移動を開始することを告げると、ユカが不思議そうな顔をしてマッシュの方を見ていた。

城を稼動させる為に地下に向かう私の後ろをマッシュがユカを引きつれ歩いてくる。階段を降りた先で待機していた師団兵に指示を出せば、フィガロ城は大きな音と共にコーリンゲンに向けて潜航を開始した。

地震と勘違いして怯える彼女をマッシュが楽しそうにからかっているのを見て、弟の代わりに真面目に理由を説明してあげる事にした。

納得してくれた相手に明日の朝まで自由に過ごしてくれと伝える。
長旅で疲れた体を癒してもらおうと、湯浴みを薦めるとセリスと一緒に行ってみますと答える彼女に僅かばかりの悪戯心が芽生える。

「それはいい。もしあれなら私と」

一緒にいかがだい?と続く筈だった言葉は弟によって遮られてしまう。

「ホラホラ!兄貴は玉座だろ!それじゃあな!飯の時でもまた会おうぜ」

屈強なガーディアンに阻まれ、気持ち半ばで強制的に連行させられてしまった。
まさかの邪魔立てを喰らった私は、ユカとセリスに自分なりのもてなしと称し、マッシュに対しては仕返しとしてあることを目論む。

その結果、夕食前に現れた女性二人はとても見目麗しい姿を披露してくれた。

「やっぱり似合っているね。2人共とても綺麗だ」

彼女達の容姿に合わせたドレスを選び、湯浴みの後に着替えてもらったのだ。
とはいえ2人がそれを易々と受けてくれる筈がないのは重々理解していたので、こっちでそうなるように仕向けたというのが本当のところだ。

それを簡単に見抜かれてしまったが、後悔はまったく無い。
女性というのは格好が変わるだけで普段とは雰囲気すら違って見えるから不思議だ。

魅惑的な二人をエスコートするように扉を開けて部屋へ招き入れると、変化に気付いたロックが腑抜けた顔をしてみせる。
上々の反応に気分を良くしながら、今度はユカをマッシュの所へ連れて行く。弟の真正面の席へ普段と違う着飾った彼女を誘導していけば、想像以上に面白いものが見れた。

彼女の格好を見たマッシュは椅子を鳴らすほど驚き、手に持っていたリンゴを落としたのだ。しかも、硬直したまま呆けた顔でじっとみつめていたせいでユカはその反応を悪い意味で取ってしまう。

「私だって身の丈に合ってないのは分かってる。だからそんな奇異な目で見ないでよ」

弟とはいえど、流石に頭を抱える事案ではないか。
こんなにも綺麗な女性を目の前にして、褒め言葉の一つすら浮かばないとは…。

マッシュに仕返しを目論んだ自分だったが、相手の予想外過ぎる難点に反撃を食らった気分になる。
その後も、セリスの一言で私は男達に難癖をつけられたのだった・・・。


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