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※【マッシュ編EP.19と内容は同様】

城でティナを匿い今後の事を考えながら眠りについていた時の事。突然、ケフカがティナを奪還しに城まで訪れ、脅しと共に卑劣な行為を敢行したのだ。
咄嗟に機転を利かせ火の手の上がった城を砂に沈め、私達3人はチョコボに跨りケフカを出し抜き逃走に成功したのだった。

同盟国でもあった帝国の裏切りに遭った事で、私はこのまま裏で提携を結んでいたリターナーに組する時期だと踏んで行動を移す事にした。

魔法を使うティナ。
彼女は間違いなく帝国と渡り合うには、必要不可欠な存在になるだろう。
そして、その彼女をリターナーの指導者であるバナン様に会わせるべきだと判断し、ロックと共にサウスフィガロに向かった。

コルツ山へと向かう準備をする為に、久しぶりに訪れたサウスフィガロの街。
そういえばと思い出したのが、双子の弟のマッシュの事だった。
この大陸で有名な格闘家ダンカン師匠の元に弟子入りしたと聞いていたからだ。そしてこの街にはそのダンカン様の家がある。
会えるだろうかと少しの期待を胸に戸を叩くと、出てきたのはダンカン様の奥さん一人だけだった。

『今は弟子とともにコルツ山に修行に出ております』

会えなかったのは残念だが、コルツ山にいるのなら後々機会はありそうだ。何せ自分達はリターナー本部に向かう為にその山を越えなければならない。

その後、準備を済ませ街を出発する自分達。
山に登る前に立ち寄った小さな家は、奥さんに教えてもらったダンカン様が修行の拠点として使っている場所だそうだ。

ロックにその話をしながら家を訪ねようと石階段を踏んだ瞬間、目の前の扉が恐ろしい程の勢いで開くと、一人の麗しい女性が現れた。

『…ッ…マッ……』

言葉が途中で止まり私の顔をじっと見つめる女性。劇的な出会いに心射止めてしまったのかと思ったが、全くもってそうではなかったようだ。

相手は残念そうに、そしてこちらを見定め思考を巡らせているのが見て取れた。
なので自己紹介が遅れたことを詫びながら、尋ねた理由とここにいるであろう人物を示唆する間接的なやり取りを試みる。
すると意図に気付いた彼女は私の顔を見ながら弟の名前を口にした。

『マッ…シュ……さん』

敬称を付けた呼び方と、名前を口にする表情を見ると、何かがあったと見るべきだろうか。望めぬ期待を持ちつつ“ここに居るか”と尋ねれば矢張り答えはNOだった。

だがまたしても行き先はコルツ山。このまま行き先を述べて失礼しようとした矢先、話を割ってきたのは彼女の願いだった。

頭を深々と下げ何度もお願いするのは、一緒にコルツ山に連れて行って欲しいというものだった。女性にそこまで頼まれて断るのは難しい、というのは建前。
はっきりいえば、我々の目的と目的地を知られるのはどんな形でも良い事じゃないからだ。

しかし、それでも彼女の願いを受け入れたのはマッシュとの関連性や知っている情報を得たいが為でもあった。
こんな場所に女性一人という疑問。
コルツ山について行きたいという唐突な願い。
もしも彼女が帝国との繋がりを持っていたとしたら…。

他人を勘ぐってしまうのは国を背負うものとしての性だとしても、女性を疑うのはやはり気が引ける。だからこそ、置いていくよりも今後対処できるように、共に行動する事を選択した。

行くことを了承すると、彼女は直ぐに自分は戦うことの出来ない非戦闘員だと話す。街娘ならば経験がなくともおかしくはない。
事情を了承し、ユカの支度が済むのを外で待っていると、家から出てきた彼女はまるで男性が身に纏う様な服装に変化していた。

殆ど見たことのないタイトな上下に、結い上げられた黒髪。
色合いもティナに比べれば、とても落ち着いていた。
丁寧な態度で待たせた事を詫びる彼女はいったい何者だろうか。

その後も様子を見ながらコルツ山を登っていくが、想像していたよりも彼女は旅に対しての免疫がない。体力もそうだが、特に戦闘に対しては目を背けるほどなのだから、元来心の優しい子なのだろう。
ただ、険しい道のりに対して覚悟通り一言も休みたい、疲れたなどの弱音は口にしなかった。

それに、彼女は自分を楯にティナを庇い毒状態に陥ったのだ。苦しさに耐え、回復後に心配するティナに気取らせない配慮も窺える程で、気配りと芯の強さが垣間見えた出来事だった。

そして、何よりも気になったのは山頂で休憩を取りながら次の出発を整えている時、ユカから思いもしない言葉が飛び出した事だ。

『ティナさんって魔法使えるんですね。私、初めて見ました』

まさか、普通の街娘と思っていた彼女から魔法という言葉を聞くなど想像すらしていない。おとぎ話程度に語られ、古代史にも微々たる程度しか記載されていないようなものを、目にした瞬間にそれと理解し、しかも大して驚きもしていないなんて…。

「一体、彼女は………」

私の独り言をロックは不思議そうに首を傾げるばかりだった。

魔法の事を雪や星のようで素敵と表現し、魔法自体を否定的に捉えていたティナの考えに間違いなく影響をもたらしただろう。それが如実に現れているのは、城を出てから一度も明るい顔をしなかったティナが笑顔をみせている事にある。

私でさえ出来なかった事をこの短時間で成し、そのうえ良好な関係を作ってしまうとは……。
自らの話術の自信を喪失するには十分であり、ユカという存在が思っていた以上に何かを与える事は考慮せざるを得なかった---。


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bkm

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