1人から2人、そしてまた1人となった俺は頭上に広がる鈍色の曇天を今日も見上げていた。
雲で霞む太陽が昇り夕日となって沈むと、夜には微かに明るくなる程度の朧げな月が上がっていく。ルノアを見送ってから長い日数が経過し、繰り返される理を1人で過ごす。徐々に衰退していく自然に時間の流れを大きく感じていた。
三闘神の力は世界を滅ぼすと言っていたが、強大な力と同時に大地を蝕んでいくことも指していたんだろう。先が見えない現状や枯れていく緑が段々と人々の希望を奪いはじめ、生きているもの全てに影響を与え始める。
喜びよりも嘆きや苦しみの声が増えていくのを見聞きしていると、まるで自分が何もせずに止まっているように思えてならない。
城の者達を助けたい、仲間を見つけ出したい、世界を救いたい。
こんなにも叶えたい事があるのに何一つ成就出来ず、辿り着いた先に広がる果てしない砂漠を前にすると、自分という存在が些細に感じる。
「俺の何処が・・・一体何が国王だ」
微力すぎる力…1人では大した事も出来ないというのに、大勢の人間の前に立つ王としての自分。恥じない存在としていたいと思うからこそ死力をつくしているが、至らなければ多くを失い責任を負う為の重責が伴う肩書きだ。
もしもこのまま・・・何もかもが―――。
広大な黄金の大地に飲まれそうになる淀んだ意識を懸命に振り払い、チョコボの手綱を操り前進していく。砂漠に足跡だけを残し、今の自分が出来得ることを終えてようやく町に帰ってきたのは太陽が深く沈んだ後の事だった。
月明かりの方が強いと思えるほどの弱々しい街頭に照らされながら、明日はどうすべきか考えてみるものの、やはり今日と同じように町や砂漠の状況を確認しながら、仲間に出会えるのを待つくらいしか見通しが立たなかった。
全てが後手に回り打開する転機が訪れない…そんな毎日が淡々と続いているのが現状だった。
それでも諦めさえしなければ出来ない事はないと自らを強く鼓舞して、逆境を省みず前へと進むことを決して諦めなかった。それが唯一であり、散り散りになってしまった皆もそうだと信じているからこそ自分も立っていられるんだと。
必ず会える。
生きて仲間や城の者達と再会できると信じ続ける以外になかった。
明日への活力と希望を自らで作り上げ、乱れそうになる心を整えるように息を深く吐きだし俯くのをやめて前を向いた時だった…―――。
「心配はしない。…そのつもりだったのに帰ってくるのが遅すぎる…ッ」
怒ったように俺を出迎えてくれる存在を目にした瞬間、懐かしさと同時に上手く表現できない気持ちが心の奥底から湧き上がってきて、抑えきれない衝動に駆られていくのが分かった。
止めなければ。
そう思ったのはほんの一瞬で、自らを抑制することは叶わず俺は彼女に近づくと腕を伸ばして相手の体をそっと抱きしめていた。
「無事に戻ってきてくれたんだな…」
ルノアは突然抱きしめた俺を拒絶することなく、“貴方も無事で良かった”と言葉を紡いでくれた。こんな事など許されはしない関係性だというのに、どうして彼女は受け入れてくれたのか。
わからないけれど許容してくれた彼女の優しさに漬け込んで、まるで乾いた気持ちを癒すかのように胸の中に居る相手を俺は抱きしめていた。