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ゾゾへと向かう飛空艇の中で、セッツァーに我々のことや今までのこと、そして仲間であるティナについて説明をした。
雨の降る街に到着した我々は、建物の最上階を目指して上がっていく。家の中に入ると、そこにはティナを見守るカイエン達の姿があった。ロックがティナの寝ているベッドに近づいて行くと、懐にしまっていた魔石が淡く何度も輝き、それに反応するかのように彼女が目を覚ました。

「おとう・・・さん・・・?」

魔石を見つめるテイナはゆっくりとそれに手を伸ばし、懐かしむように触れると忘れていた記憶を話してくれる。

「思いだしたわ。わたしは幻獣界で育った」

父親の魔石からティナを通して語られる出生。
そして、幻獣に対して帝国がやってきたことを我々に教えてくれた。

18年前の嵐の夜に起こったティナの父親である幻獣と人間の女性である母親との出会い。2人が種族を超えた絆で結ばれ彼女が生まれた。

その二年後に起きた悲劇こそ、帝国による魔導を狙った襲撃だったのだ。

次々と幻獣達が捕まるなか、長老は最後の手段として封魔壁を作り出すことを決断した。
嵐をおこし全ての異物をこの世界から追い出し結界のゲートに封印の壁を閉ざす封魔壁。
だが、術者である長老への負荷は大きく、本人の犠牲が伴うものだったようだ。
封印をおこなったものが死ねば、一生封魔壁を開く事もできなくなる事を知ったうえでティナの母親は幻獣界に残ることを決意した。

これ以上の被害をくいとめるためにも封印を行う決断をした長老。
詠唱を始めたことにより幻獣界には大きな嵐が吹き荒れていたそうだ。
封魔壁の魔法が発動しはじめたとき、ティナの母親は幻獣達に自分が帝国と同じ人間だと疑われたことに心を痛め幻獣界から去ろうとする。それを父親が呼びとめ村に戻ろうとするのだが、奇しくも強い嵐がティナ達家族を封魔壁の外へと追い出してしまった。

ティナをガストラから助けようとした母親は殺され、幻獣である父親は魔導研究所へと連れて行かれた。
そしてティナもまた帝国の殺戮兵士として育てられたのだ・・・・。

悲しすぎる出来事を知った我々は、同時に今まで以上に帝国に対する強い怒りが生まれた。苦しい思いをする幻獣や人々を生み出さないためにも、これ以上相手に好き勝手なことはさせられない。強固な決意を胸に、ティナの言葉を受けて皆でナルシェに向けて飛び立つことを決めた。

飛空艇を飛ばし雪降る大地に降り立ったあと、今まで同行していた弟に声を掛けて町へと向かった。バナン様と今後について話し終えたあと飛空艇に戻れば、一足先に帰っていたマッシュが昇降口付近でユカと話をしている姿があった。
話の内容を立ち聞きするつもりは無かったが、弟の彼女に対する言葉に棘の様なものを感じてしまい私はあえてセッツァーの手伝いで手が汚れていたユカに声を掛けることにした。

「なかなかの汚れぶりだね。オイルの落とし方は知っているのかい?」
「普通に洗っても駄目ですか?」
「意外に落ちなくてね。おいで、教えてあげよう。それから手が荒れるから後でクリームを塗るといい」

誘導することに成功したのち、自分が機械をいじった時に愛用している石鹸を貸してあげた。色々と説明したり話を聞いたりしていたのだが、気付くと彼女はぼーっと上の空になりながらずーっと同じところばかり洗い続けている。
それとなく話を聞けば、食事のことを考えていたと無理やりすぎるような理由が返ってきた。

もしや、マッシュと長く旅をしたせいで似てきたのかもしれないなと語れば、彼女はそれだけで笑顔を作ることが出来るのだから、さっきの誤魔化しが嘘であるのは明白だった。
嘘をつくのが下手な事や、弟のことを考えて悩んでくれる彼女に嬉しさと喜びを感じてしまうのは兄だからだろうか?。笑顔が零れてしまった私を見て、不思議そうにするユカが益々可愛らしく思えてならなかった。

ナルシェでバナン様と話した内容をまとめた後、皆に今後の動向を説明する。全員の了承を得てから、我々は飛空艇に乗り込み南大陸の東部にある封魔壁がある帝国領土へと再度進行していった。

ティナの父親であるマディンの記憶から語られた封魔壁という扉。我々人間と関係を断ち切った幻獣に協力を仰ぎ、リターナーと共に危険な思想を持つ帝国と戦って欲しいと呼びかけるのだ。

ティナは幻獣と人間との橋渡しをする大事な役目を担う存在。一切の情報が無い封魔壁と呼ばれる場所へと向かうため入念な作戦と準備をしながら大陸に到着するのを待った。

暫くして飛空艇が帝国の領地へ着陸する。
目的の場所に向かうのは私とティナ、ロックとマッシュの四人だ。
皆が応援の言葉をかけてくれるなか、ユカだけが少し雰囲気が違って見えたのは気のせいだろうか。ただ、マッシュに対しては笑顔で見送っているのだから、見間違えだろうと思いティナたちと共に監視所へと足を進めた。

南大陸の東部にある封魔壁の監視所には帝国兵が常駐しているため進入は困難だと想定していたのだが、兵士の姿はどこにも無かった。

明らかな異変に違和感を感じながらも強力なモンスターが徘徊する洞窟内を進んでいく。
入り組んだ地形と複雑な仕掛け、溶岩の上に現れては消える危険な足場を越えてどうにか到達した封魔壁。

それは人の力では到底動かせないであろう巨大で重厚な扉だった。

ティナはゆっくりとそれに近づき扉の向こう側にいる幻獣達に呼びかけ始めるのだが、彼女の様子を見守っていた我々の後ろから突然、高笑いが響いてくる。
振り返るとそこには兵士を引き連れたケフカの姿があった。

「ガストラ帝国のいっしゃったとおりだ!ティナを帝国に刃向かう者に渡し、およがせれば封魔壁を必ず開く・・・」

手の内で踊らされていたんだと我々に向かって言い切るケフカの言葉に、全てがその通りになっていると気付かされる。帝国の思惑に沿って歩いていたなどと認めたくはないが、だとしても我々も幻獣の力が必要だったのは確かだ。

封魔壁に背を向けながらティナを守るように戦いを始めると、後方で大きな地響きと共に巨大な扉がゆっくりと開いていった。
奥から流れてくる強い力にそこにいた全員が吹き飛ばされ、出口まで押し戻されてしまった。開いた扉から多くの幻獣達が飛び立ち、開く筈の扉が今度は反対に閉まっていく。
そして岸壁が崩れ始め、まるで扉を封印するかのように岩の塊がいくつも転がり落ちてきたのだった。

何処かへ飛んでいってしまった幻獣のことや退散したケフカの動向を確認するためにも我々は一先ず飛空艇まで戻ることを決める。研究所の入り口で出迎えてくれたカイエンに話を聞くと多数の幻獣がベクタへ向かったことを教えてくれた。

早速帝都へと向かうため自ら飛空艇の舵をとって進むのだが、甲板に出てきたティナが懸命に誰かに対して呼びかけ続けていた。

「だめ…、行ってはだめ……行かないで、お願い!!」

強い衝撃に襲われた飛空艇はコントロールを失い高度を保てなくなっていく。
見る間に失速する船体が木々をなぎ倒し大地を削りながらようやく動きを停止した。想像もしていない状況で着陸できたことは奇跡的とも言えるが、我々を守ってくれた飛空艇はかなりの損傷を負っていた。
甲板に居る仲間は怪我もないようで安心したのも束の間、船内へと向かう階段を降りていこうとすると、誰かがもめている声が響いてきた。

「だったら、お前がここに居れば良かったんじゃないのか?」
「けど、俺は!」
「お前は行くことを選んだ。それだけの事だ」
「だとしても突然居なくなるなんて思うかよ!!」
「自分が選んだ結果だろ。ユカが居ないこともあいつが決めた事だ。ほっとけよ」
「セッツァー…!ッ…てめぇ!!」

マッシュがセッツァーの胸ぐらを掴むのを見て、これ以上の事がないように私は咄嗟に間に割り込んだ。しかし過熱した双方の睨みあいは続き、どうしたものかと考えていると、それを終わらせたのはセッツァーの一言だった。

「なぁ…お前って、一体あいつの何なんだ??」

それを聞いたマッシュの手から力が抜けると、悔しさに表情を歪ませながら走り去っていってしまった。
2人のやり取りと会話の内容から察するに、ユカに関してなのは明らかだ。そしてそのユカがここにはいないという事がセッツァーの言葉から想像出来る。

一体彼女はどうして居なくなったのか。
それを考えながら夕食を摂っていたのだが、マッシュがそこに姿を現すことは無かった。
滅多にない状況が気になり相手の姿を探すと、飛空艇から離れた場所で遠くを見つめる弟がいた。

声を掛けてみるものの私の言葉など殆ど届いていないようだ。生返事をする相手に少しだけ助言を出来たらと思ながら、私なりのユカについての見識を話してみる。

「彼女は頑張り屋だからな。きっと何かあったんだろう」
「何かって何なんだ…?」
「最近少し元気が無かったじゃないか」

するとマッシュはいつも彼女は元気で笑顔でいるのが当たり前だと口にする。それが誰にとってもそうでは無い事を弟は知りもしなかったのだ。

ならば他者との違いに気付いていない相手に、ユカにとってお前は何者なのかを問いかければ、マッシュは自らを“保護者”と例えた。確かに、彼女を見守り手伝ってあげているのならそれでも不正解ではないだろう。なのにきちんと彼女の本質を見抜いてはいないようだ。

彼女の自分の辛さを隠してまで頑張ってしまう性格や、信頼の置ける相手であるマッシュが彼女にとって大きな存在だからこそ言えなくなってしまったんだろう。

だからこそ、ユカは“なにも言わずに”1人で旅立った。

マッシュの性格を鑑みればきっと言えない。
言えばどうなるかも想像できたからこそ、彼女はあえて去ったのだと思えた。

「迷惑を掛けたくない。だから言えなかったんじゃないのか?」

この事を伝えた途端、如実に表情が変化したのが分かった。マッシュはいきなり自らの両頬を恐ろしいぐらいの勢いで叩きながら、大声で宣言しだしたのだ。

「アニキ!俺、決めた!ユカのことを探す!!」

ついさっき伝えた一言がどうしてそこまで弟に影響があるのか理解できないが、自身の中では解決へと繋がったようだ。意気込むマッシュを落ち着かせるため、食事を摂ったらどうだと話せば、思いがけない答えが返ってくる。

「あー…いや、いい。何ていうか、腹減らないんだ、全然」

転地がひっくり返るほどの事態に言葉が出遅れる。重症の相手はその理由を考え込んだせいだと分析していたが、あまりにも的外れな答えに溜息以外のものが出てくる訳も無かった…。

「早く腹が空くようになるといいな…」

理解されないであろうほんの僅かな助言をしてやり、ガウを連れて出発する弟を見送る。
飛空艇から離れていく純粋で大騒がせな追い風に期待することにした私だった。


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bkm

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