EP.77
飛空挺をひっそりと出ていってから、ようやく到着したツェンの町。
建物があって人々が暮らしている普通の風景が、こんなにも安心出来るものなんだって気付いたのは、1人で旅をしたからこそ分かった事。夕暮れに染まる町を見つめながら、私は疲れきった体を休めるために早めの宿をとることにした。

次の日、町の中を早速散策し始めたのだが、この町もアルブルグと同様に魔導アーマーや帝国兵達の姿を至る所で見る。
不安になりながらも情報を得るために、町の人に話を聞いて回っていると、大きな家の前に困った様子で何かを懸命に探している女性の姿が目に入った。

「あの、どうかしたんですか?」
「息子の姿が見当たらないんです…ッ」

帝国兵が溢れている町中で、何かあったらと思うと心配になるのは無理もない。母親の不安そうにする顔を見てたら、どうしても黙っていられなかった。

「あの、お手伝いさせて貰えませんか?」

服の特徴や年齢を聞いた後、お母さんには子どもと入れ違いにならないように、家の前で待ってもらうことにした。
武器を腰にさげた兵士の姿を目の前にすると、それだけで不安に苛まれる。帝国兵といざこざが起きてしまう前に探してあげようと、すぐに足を進めた。

念には念を入れて店の裏手の方も探していると、鬱蒼と茂る木の奥で人の影が見えたような気がした。もしかしたら迷子の子どもかもしれないと思って、急いで向かっていくと、その場所にいたのは一人の男性だった。

雰囲気からして盗賊っぽい気がして、声を掛けようか一瞬迷ったが、手がかりを捜すために勇気を出して声を掛けてみる。すると男性は私に向かって脅かすなよ、と妙に焦った様子をみせた。

「そんなところに居たら嫌でも気になります」
「仕方ないだろ。ベクタで起きた騒動に乗じて盗みに入ったんだからよ」
「ベクタ・・・」
「ああ。研究所だったかな?そこで爆発があってよ。これを手に入れたんだけど、あんたもしよかったら買わないか?」

相手の手の平に乗せられていたのは、エメラルド色をした魔石に他ならなかった。見た瞬間に、ティナやラムウの事を思い出し、私はすぐにその魔石の値段を相手に聞いていた。

「3000ギルだけど、どうだ?」
「分かりました、買います」

セッツァーに働いた分として貰ったお金が、一瞬でほぼ無くなってしまった。
それでも、今まで帝国に捕まり魔力を吸い出され続けた幻獣を、悪用される事がなくなるならそれで良かったから後悔はしていない。

手に入れた魔石を無くさないように大事にしまい、子どもの捜索を再開する。
町を囲む木々の方にも目を配りながら、ぐるっと回るように進んでいくと、前方から子どもの声が聞こえた気がした。
声を頼りに早足で向かった先には、階段の手すり部分を滑り台にして遊んでいる男の子の姿があった。近くには多くの帝国兵がいるのに、あんな危ない遊びをしているなんて見ているこっちがハラハラする。
危険な遊びを止めるために、急いで向かったのだが、話し掛ける前に男の子は塀の向こう側にバランスを崩して落下してしまった。

大きく泣き叫ぶ男の子の所に駆け寄り、優しい声をかけながら怪我をした部分を探すと血が出ていた。ポケットに入れていたハンカチを取り出し、怪我の部分を覆うと、鞄の中からポーションを取り出し、男の子に差し出した。

「飲んだら痛いのすぐに消えるからね」

泣いている子どもを宥めながら、どうにかポーションを飲ませると、痛みが引いたのか男の子は落ち着きを取り戻していった。

「お母さんが心配してたよ。抱っこしてあげるから帰ろう」
「・・・うん」

ぐじぐじと鼻を啜る子どもをしっかりと抱きかかえて、お母さんが待っていた家へと戻っていく。すると泣き止んだはずの男の子は、母親に会えた事に安心したのか、また泣き出してしまった。

「本当にありがとうございました!」
「いえ。それよりこの子が階段から落ちて怪我をしてしまったんです。傷は治したんですが念の為、この後も様子を見てあげて下さい」
「そうだったんですか。本当にすみません」
「無事にお子さんが見つかって良かったです」

失礼しますと、その場を後にしようとすると、お母さんがお礼をしたいと言葉を掛けてくれた。でも自分はそれを辞退することにした。
私の知っているあの人も、見返りを求めて人助けをしたりはしないから、自分もそうありたいって思ったんだ。

それから日雇いの仕事をどうにか見つけて、一日があっという間に終わってしまった。男の子を探して町中を調べたけど、何かに繋がるような話は見つからなかったから、明日ツェンの町を出ようと決めた。

「残るは……マランダとベクタだけ…か」

聞いた話によるとベクタでは今、大変な事が起きていて、人が近づけるような状態ではないと噂が立っていた。きっと皆がそこに関係しているのは分かったから、自分は次にマランダに行くことを決める。

次の日の朝早く、地図を見ながら目的地までのルートを確認する。海岸沿いに南へと歩いていけば町に着くことが出来そうだと、鞄を掛け直して歩き出す広大なフィールド。

あと2つ。

世界を見終えた後、もしそこに何も無かったとしたら一体自分はどうしたらいいんだろう。目の前に立ちはだかる回避しようの無い終わりが見えているけれど、止めちゃいけない。

その為に、あの場所を離れたんだから---。


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