EP.46
何だか頭がぼーっとする。
それって、マッシュとの会話のせい?。それとも、ただ単純に疲れてるだけなのか。ハッキリしないけれど、空腹と寒さを感じるのは確かだった。
宿屋に到着したあと、部屋の手配を終わらせ、すぐに着替えを済ませようとカバンに手をかけた。だけけど、川を流れてきたせいで何もかもべちゃべちゃな事に今更気付く。

濡れた服を乾かす為に物干しを借りようと、宿屋の女将さんに話をしたら不憫に思ったのか、洋服が乾くまではと一着だけ貸してくれたのだ。感謝の言葉を伝え、その服に急いで着替える。店先で待ってる皆の前に走っていくと、何故か黙ったままこっちを見つめ続けてきた。

きっと支度が余りに遅くて、男性3人は怒っているに違いない。ごめんなさいと、申し訳なさそうに謝ると、カイエンさんがいやいやいやと連呼してみせる。

「そうではござらん。服装一つでこうも変わるとは矢張りユカ殿もオナゴでござるな」
「服…?あ!実は着替えを貸してもらったんです。接客用なのか、町の方が着てるものより丈が少し短くて。着てる自分もちょっと落ち着かないんですけど」
「いやいや、良く似合ってるでござるよ」
「ありがとうございます。そういって貰えると嬉しいです」

恥ずかしさを誤魔化すように髪を触っていると、今度はガウが近くをウロウロする。

「ユカ、変わったな!男から女になった」
「そうでしょ?じゃあ今度ガウも違う服着てみる?」
「服きらいだ!きゅうくつだからいらない!」
「えー。似合うと思うのに」
「おいらはいい!!それよりメシメシ!はらへった!!」
「あ、そうだね。行こうか」

ガウに引っ張られて夕暮れに染まるニケアの町を歩き出し、港のすぐ近くにあった酒場で夕食を摂ることになった。

「何食べよっか?」
「いっぱいでいいぞ!いっぱい!」
「そうだ。ねぇマッシュ、ニケアの名物とかはないのかな?」
「・・・・・・・・・」
「おーい、マッシュさーん。聞こえてますかー?」
「・・・・・・んあ??」
「この町の名物知らないかなっ〜て」
「あ、ああ…。そうだな確か前に聞いたのは…」

教えてもらった名物を注文した後、外を見るフリをしてマッシュをチラリと見る。すると何だか物凄い真剣な表情でメニュー表を見ていた。

あんな真面目な顔をしているとなると、もしかして食べたいものがありすぎて迷っているのではないだろうか。

「ねぇ、マッシュ」
「・・・・・・・」
「こら、マッシュ!」
「…ッな、何だよいきなり」
「もしかして悩んでるの??」
「!?んな事ないぞッ!!俺は!!」
「そうなの?じゃあ注文は?」
「なに?注文?まだ決めてない」
「悩んでないって言ってたのに??」

どうやらマッシュの調子も私と同じ様にいつもと違うようだった。きっとお互いに疲れがあるのかもしれない。

「すみません、温かいスープを一つお願いします」

体に奔る寒気を感じて頼んだ料理。
それをスプーンですくって一口飲めば、体の内側を通っていくのが分かる程だ。
ゆっくりとスープを堪能してた私の隣では、頼んだ料理に片っ端から手を着け、物凄い勢いでバクバクと頬張っているガウがいる。

「うわ、口がすごい事になってるよ」
「ユカぜんぶうまいぞ!うまい!」
「良かった。じゃあ、いっぱい食べよう」

ガウが落としたものを片付けながら、自分も料理に口をつける。
こうして皆で食べれる温かい食事は本当に美味しいなと思いながら、四人でゆったりとした時間を過ごしていった。

お腹もいっぱいになったところで、食事を終えて宿に帰ろうと代金を支払いにカイエンさんとマッシュがカウンター席に向かった。
すると、綺麗な洋服を身に纏ったセクシーなブロンドの女性が、2人に妖しい声音で話掛けているのが見えた。

「ねぇ〜お兄さん。私と一緒に飲まない?うっふ〜ん」

もの凄くダイレクトな誘い文句に、真面目なカイエンさんが激怒してるようだ。
テーブル席から成り行きを見守っていたけれど、疲れが限界に達した私は、壁に寄りかかりながら目を瞑って事が終わるのを待つことにした。

「な、な、な、何をふしだらな!そこに直れ!」
「お堅いことなしよ。楽しもうよ。ほら、タニマ」
「た、た、たた、タニマ〜〜〜!?」

何だか大人の雰囲気が漂う話が聞えてきたような気がするけど、意識が朦朧としていて話がきちんと入って来ない。
ガウに話しかけられても上手く返事が出来ないし、向こうは向こうで楽しんでるようだった。

「カイエンさん免疫なさそうだからね」
「お、おぬしは平気なのか?」
「禁欲生活長かったからねぇ。これも修行の賜物ってこと」
「ごちゃごちゃ言ってないで。ねぇ〜〜〜」
「こコラ。おぬし。オナゴと言うのはな。恥じらいとつつしみを持ってじゃな…ウンチク、ウンチク…ウンチク」

カイエンさんの話が始まったようで、呪文の様な声が聞こえ始める。これは長くなりそうだなと感じたから、ゆっくりと椅子から立ち上がりマッシュの腕に手を添えるようにして優しく引っ張った。

「あのね、マッシュ」
「うお!ど、どうした!?」
「時間かかりそう…?」
「あ〜……多分な」
「悪いなって思うんだけど、先に戻ってても大丈夫かな…?」
「いいけど。何かあったのか?」
「…ちょっと眠たくて」
「そうか。でも1人で行かせたくないし、ちょっと待ってろ」

そういうとマッシュは女性とカイエンさんを落ち着かせ、早々に話を切り上げてくれた。

「さ、帰ろうぜ」
「ありがとうマッシュ。もっと居たかったのにごめんね…」
「そんな事一言も言ってないだろ俺」
「…だってさっき笑い声が聞こえたから」
「あ、イヤ…。あれはカイエンを笑っただけで」
「そうなの?いいの??本当に??」
「んな事気にしてないでさっさと帰るぞ!ほら!」

変に焦った様子のマッシュにせっつかれて、騒がしい酒場を後する。
すっかり暗くなった夜道を冷たい潮風が走り抜けていくのを感じ、自分の両肩を温めるように抱き締めながら宿屋を目指した。

3人部屋と1人部屋が取れた事で、自分は自動的に1人の部屋を割り当てられる。
マッシュとガウとカイエンさんに廊下で夜の挨拶をして、そのあと直ぐに部屋に入った。

疲れを取ろうと湯船に浸かり髪を乾かした後、すぐにベッドに倒れこむ。
今までにない体の重さを感じながら、早々に布団に潜り眠りについた自分。

明日は船に乗ってサウスフィガロの街へと向かう日。もう少しでマッシュ達の目的地であるナルシェに着く。
だから、尚更頑張らなきゃいけないんだ・・・。


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