EP.28
自分が感じてた不安をマッシュが払拭してくれた。
彼に感謝の気持ちを伝えながらエドガーさんと一緒に3人で話をしていると、リターナー本部にいる全員に召集が掛かった。

大きなテーブルが置かれた場所に次々と人々が集まってくる。最後にバナン様が登場し、話し合いが始まったのを部屋の端の方に身を置きながら聞いていた。

「さて…帝国は魔導の力を用いて戦争を始めたのは皆も知っての通りだ」

話を切り出したバナン様は帝国がどのようにしてその力を復活させたかという議論に入る。すると、エドガーさんがロックの調べた情報を語ってくれた。

その内容は世界中の学者を集め、幻獣の研究を始めたというもの。
ナルシェが攻撃された原因もそのためだと話す。

「魔導の力と幻獣に何か関係があると…」

ティナが小さな声で言葉を発するとバナン様は頷く。
そしてこの2つのキーワードが結びつくことで考えられる答えは“魔大戦”という大きな戦いだという。

その大きな戦いがまた繰り返されるのか否かは、今は断言出来ないようだ。けれど、その特殊な魔導を手にした帝国が争いを生み出すとしたら、止めなければならない。
今のリターナーが帝国と戦う為の力、その対抗策としてバナン様が提示したのは幻獣との対話だった。

「危険だが…ティナと幻獣をもう一度反応させれば幻獣が目覚めるかもしれない」

皆が一様に信じられない思いでいたが、どちらにしろこの答えは当事者であるティナにしか出せない。

「やってみましょう」

そう話したティナの表情は、最初にここに来た時は明らかに違っていて、しっかりとした意志があるように感じる程だった。
ティナの決意により話がまとまり、次に目指すはナルシェの街となった。
緊迫した会議が一旦落ち着くと、マッシュがこっちを見ながらこんな事を言う。

「何だかチンプンカンプンだが…おもしろそうだな」

どこにいても彼は彼のままだなぁって小さく笑っていたら、突然出入り口の方から大きく扉を開く音が響いてきた。慌てて全員がその方向に目線を向けると、地面に倒れこむ兵士の姿があった。

「た、大変です!バナン様…サ、サウスフィガロが…」
「お、おい!どうした!?何があったんじゃ!?」
「て、帝国がサウスフィガロからこちらへ向かっています…」
「気付かれたか…作戦を急がなくてはならん!!」

騒然とするリターナー本部。
すると冷静な表情と行動で一番最初に動いたのは、エドガーさんだった。

「ロック!」
「分かってる。サウスフィガロで内部から敵を足止めする作戦だろ?」
「お前の特技を見込んでの作戦だ!頼んだぞ」

2人は疎通の取れた言葉を掛け合い頷き合う。
そしてロックはティナに向き直り心配するように話しかけた。

「ティナ。俺が戻るまで大人しく待ってなよ。特に……手の早いので有名などこかの王様には気をつけろよ」
「ロック!」
「兄貴…まだその癖直ってないのかい?」

エドガーさんが怒る前にロックは忽然と姿を消し、マッシュが昔からと語る変な癖を緊迫した状況の中で知る。そんな一面を垣間見た後に今後の動向を真剣に語るエドガーさんを見ると、あまりにギャップが激しい。

ともあれ自分達も出発の準備を早々に済ませ、バナン様の後についていく。
その途中、エドガーさんがマッシュと話をしていて、その次に私に気遣う言葉と一緒に何かが沢山入った少し重たい袋を渡してくれた。

レテ川を下る為に移動を開始して乗り場に居た兵士の話を聞き終える。
それから早速イカダに乗ろうとするけど、現実を目の当たりにして足が竦んでしまった。

「そ、……そんな…」

崖から切り出た岸壁から下を覗けば、大きな川が流れているのがよく分かった。
けれど川の流れは恐ろしく速い。その上、激流を下る乗り物であるイカダが…丸太を使って組み上げられた簡素な作りだったからだ。

この時、自分の頭を過ぎったのは不安。
本当にこれで無事に川を下りきる事が出来るのだろうか。強度や信頼性がどうだと、よくテレビで安全性が取り上げられているが今の比じゃない。

でも、これを使うのは間違いないようで、誰も何も言わず普通にイカダに飛び乗ろうとしている。

「どうしたの?ユカ」
「え??あ…ええ…あぁ、うん」

言えない。
今からこれに乗るのに、ティナに不安を与えるような事はしちゃいけない。
姉の様な気持ちが先に出て、首を横に振って不安を吹き飛ばしていた。

「大丈夫かい??レディ達」

突然エドガーさんがティナと私の間に割って入ると、覗き込むようにして様子を窺う。しかも“大丈夫じゃないです”…とは言わせない笑顔をしていた。

「マッシュはバナン様を頼む!さぁ行こう2人とも!私に掴まるんだ!」
「ぇ…?ええ…ッ??…ッああ〜〜ッ!!!」

エドガーさんが私達の腰に腕を回し、逃げられないようにホールドしながら3人一緒にイカダへ飛んだ。この状況と不安と衝撃が怖くて、知らぬ間にエドガーさんの事を抱き締めてしまっていた。

「ユカ、無事に着いてるけれど、君が望むならこのままでも私は構わないよ?」
「ぃ…いいえ、あのッ!!ごめんなさい!!エドガーさんッ!!」
「それは残念だ」
「おい兄貴、何してんだよ」
「レディをエスコートするのは男の務めだろう?それにイカダに乗った時の体重差を計算した上での組み分けだ」
「上手いこと言って誤魔化したな兄貴」
「もうじきイカダが切り離される。落ちないようしっかり掴まるんだ」
「は、はい」
「もし良かったらまた私に掴まっても構わないよ?」

整った顔立ちで素敵な笑みを湛える相手を見て、今になって気づいた事があった。エドガーさんはとっても自信家…というか物凄く恥ずかしい事を普通に言う人なのかもしれないって。ロックも言っていたし、さっきの言葉遣いや行動も全部がそれを示している気がする。

それにとっても人の事を見てる。
上辺だけじゃなくて内側も見ようとする観察力も洞察力も優れたリーダー的な人物。
大事な話をしている時や会議の時の厳格な雰囲気もそう。だからこそこんな若さで国を統率出来るだけの実力を持っているんだなと凄く納得出来た。

けれど、納得できない事も1つある。
それはやっぱりこのイカダの安全性だ。

川に落ちたら絶対に良くない事が起きるのが想像できる。
しかも危険はそればかりではなく、川の中や空から敵が現れ襲い掛かってくる。足場が不安定な中で、ティナは魔法を操りエドガーさんは機械を扱う。マッシュは格闘を駆使して戦い、バナン様は魔法とは違う特殊な力で皆の傷を癒していた。

急流の中をイカダに乗ってまっすぐ進んだり、左にいったりと難破せず順調に流れていった。しかし、この後突然現れる謎の生物により波乱が巻き起こる……。


prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -