「じゃあ、ユカはどっちがいいんだ?」
「------・・・ん・・・・」
「なぁ、どうなんだ?」
「--------・・・・・・・」
「おい、ユカ。………ユカ?」
「--------・・・・・・・」
「寝てるよ、こいつ…」
頑張れるって意気込んでおいて、俺より先に寝ちまった。
本当に何ていうか、面白い奴で。
「…ったく」
力が抜けて傾いてくる相手の体を、そっと受け止め抱きかかえた。
家のドアを静かに開けてゆっくりとユカをベッドの上に降ろすと、自分は外に出て行き彼女との会話を思い返していた。
互いが感じた変な違和感は認識の掛け違えが原因で、それをもっと知りたくて、あんまり話したがろうとしない相手から少し強引に聞き出した。
ポーションを見せた時のユカの反応。
そして何よりも、モンスターに対してあまりにも無防備だった事が決定的だった。
コルツ山で見つけた時に何も持ってなかったのは、身を守るためのものが必要ないから。鞄を探してたのだって、誰かと連絡をとる手段として欲しかったからだし、焚き木を拾いに行って逃げてきたのは、戦えないからなんだ。
この世界にだってユカのように戦えない人がいるのは知ってる。
全員がそうじゃない事も分かってる。
だとしても、陽が落ちた後のフィールドに行く事がどれだけ危険かなんて、子どもだって知ってる事だ。それを知らないのは、明らかに変だったから。
生きていく為の最低限の知識が無い人間が旅をするのはどうやっても無理だろう。今まで運が良かったってだけで乗り越えられるもんじゃない。
「………ユカは本当に知らないんだ」
彼女にとって戦えない事、知らないフリをする事に何の得がある。
そんなのどう考えても見つからない。
もしも人を貶める様な奴だとしたら、こんなに人の為に悩んだり心配したりする訳がないんだ。
俺は昔から人を見る目だけはあるって自負してる。
だから、ユカが俺の問い掛けに答えてくれたってだけで、十分なんだ。
別に大事なのは物事の存在の有り無しじゃないから。
「知らなきゃ教えてやればいいだけだしな」
遠くにあるようなことを難しく考えたって、そういうのは自分の性に合ってない。ユカと話しをして、目にして感じたものが信じられるものだ。
そんな考えを一つ導き出して、夜空に浮かぶ月を見る。
「あ・・・・・・」
真上にあった筈の月がだいぶ落ちていて、陽が昇るまでの残された時間は少ないようだ。
「少し寝とくか」
ぐっと両腕を空に伸ばしてあくびを一つ。
明日こそは帰って来いと、姿を消した相手に独り言のように文句を口にして、俺も遅い眠りにつくことにした---。