EP.105
ここは竜の首コロシアム。
腕に自信のあるものが世界中から集まり、アイテムを賭けて戦う場所。

建物の入り口で聞いた説明通り、ここは闘技場。
狂乱の世界だからこそ確立した夢の形かもしれない。

人々が好んで戦うなんて怖くもあるけど、格闘技という位置付けと考えれば自分がいた世界にも存在はしてた。でも、その場面を映像越しでしか見たことがなかったから、コロシアムがどんな場所なのか物凄く気になった。興味本位で足を踏み入れると、そこには屈強そうな人ばかりが集っていた。

「……ユカ、あれは…何…?」
「え?」

私と一緒に来ていたルノアが向こうの方を指さした。動きにつられて顔を向けると、そこには見覚えのある姿があった。
急いでマッシュとエドガーに伝えると、二人揃って怪訝そうな顔をしてみせた。

でも、どうしてあの存在がこんな所にいるのか。
皆も気になるようで念のため警戒しながら近づいてみることにした。
少し遠巻きに観察すると相手はうなだれるようにカウンターに凭れながら、ブツブツと独り言を言い続けている。

「このオルトロス様がコロシアムの受付をしてるなんて…トホホ」

ここにいる紫色のタコっぽい生物はオルトロスというらしい。レテ川でティナを襲い、その後マッシュが川に飛び込むという大事件の元凶。
他にもオペラ座では舞台の上に落下してきて、芝居を滅茶苦茶にしたヤツだ。

こっちの視線に気がつくと、悪びれもせず気さくな感じで“待った待った?”と以前と同じ事を言っている。

受付から出られないのか、飛び出しては来ないようだ。それに安心して話しかければ、この場所の概要を親切に教えてくれた。

「そうそう…しょうもないアイテムを賭けても無駄だよ〜ん。テュポーン大先生が出てきて君達にお仕置きしちゃうよ!」

大先生とかいう似たような仲間がいるようで、こっちを見ながら威張ってくる相手。三度目の再会だが、見慣れぬ姿に視線がさ迷う。
タコの見た目からくる妙な生々しさ。受付の机の上でうねうねと動く足を注視していたら、今なんか相手と目があった気がした。

「ワイのことそんなに見て…もしかして惚れた?」
「絶対にないです」
「もしかしてツンデレ??ツンデレ??」
「全然違いますからっ!」

何というか、あの目がどうも苦手だ。うへへと笑っているようにも見えるし、足の動きと相まってぞわっとする感じがある。
見るのはもう止めようと視線を逸らしたら、いきなりマッシュが私の肩を抱くようにして後ろへと引き寄せた。

「おいタコ野郎!今、掴まえようとしたろ!!」
「邪魔するな!だからキンニクモリモリ嫌いだーー!」

いつの間にか自分が標的になっていたようで、それに気付いたマッシュが庇ってくれたようだ。危機も去り一安心と思ったけど、現状にハッとする。
抱き寄せられてるせいで彼の胸元に頬が触れてしまい、否が応でも意識してしまう。

「も、もう大丈夫だよ!!へ、平気!」

慌てるようにマッシュの腕から離れて、楚々とルノアの近くに逃げる。すると彼女は物凄く険しい表情でオルトロスを見ていた。

「大丈夫??」
「…い……い…いや、あれはダメッ…む、無理…だ」

相当苦手な部類なのかオルトロスから結構な距離をとっている。意外にもこういうのが駄目なんだなと、新たな一面を知った気がした。

オルトロスのことはさておき、シャドウさんの目撃情報がないか聞き込んでいると、カイエンさんが情報を掴んだようで皆に話をしてくれた。
コロシアムの参加者の中に、全身黒づくめの奴が参加してるらしく、『いちげきのやいば』という刀をさがしているという噂だった。

全身黒づくめといえばきっとシャドウさんの事だろう。だけど、シャドウさんが欲しがっている刀がなければ、コロシアムで戦うことは出来ない。
どうしたらいいのか頭を悩ませていると、エドガーがそれなら持っているから心配ないと言う。

「え??どうして持っているんですか?」
「シャドウを見つけた獣ヶ原の洞窟で手に入れたんだ。持ってきて良かったよ」

賭けるものがあるのはいいけれど、一体誰がシャドウさんと戦うのか。その話になった時、カイエンさんが名乗りを挙げた。
同じ刀を扱う者として、戦いを挑みたいという武士の志を感じる一言だった。

いちげきのやいばを賭け、カイエンさんがコロシアムの舞台に立つ。
それを観客席で見ることになったのだが、想像以上に手に汗握る緊迫したものだった。

張り詰める会場は固唾を飲んで二人の動きを見つめている。漂う雰囲気は僅かな隙も許さないほどで、動けば勝敗を決しそうな、そんな予感を感じさせた。
そして、目にも留まらぬ速さで二人が動いた瞬間、カイエンさんの得意とする奥義が炸裂し、まるで空間を切るような一閃が引かれた。僅かな時間を置いて倒れこんだのはシャドウさんで、カイエンさんが勝利を収めることとなったのだった。

「っはぁ……!すごいドキドキした!」
「真剣勝負を見てると、こっちも気持ちが高ぶるな」
「マッシュも戦ってみたいって思う?」
「ああ!いつかコロシアムに出てみたい」

そんな会話をしながら受付のところまで行くと、カイエンさんとシャドウさんの姿があった。傷が癒え切っていないシャドウさんをカイエンさんが支え、皆と一緒に来ないかと誘った。

「修羅の道・・・究めてみるか」

コロシアムでの戦いを終え飛空挺へと向かう彼の後をインターセプターが歩き、リルムがその後をついて歩く。
皆もそれに続いて帰ろうとしたのだが、セリスの姿がない事に気付く。手分けしてコロシアムの中を探し回ると、セリスが1人壁に寄りかかりながら苦しそうな表情で俯いていた。

「どうしたの……セリス?」
「…それが」

詳しい話をする為に飛空挺へ戻る時も、セリスは視線を下に向けたままだった。
コロシアムにいた帝国兵の生き残りから聞いた話の内容は、バンダナをまいた私達の仲間に、とっておきの情報を教えてやったと言うものらしい。

「『帝国に2度話しかけろ』それがガストラ皇帝が秘宝を隠した場所のヒント。…そう話していたわ」

「バンダナをまいた人物は、ロックで間違いなさそうだな」

「でも、帝国ってどういう事だよ?ガストラ帝国はあの時ケフカに…」

「とはいえ、今でもそれが通じる内容だとしたら帝国に関する何かなんだろう。二回という回数制限があるなら物という考えも出来る」

全員が頭を悩ませている中、リルムが飄々とした声でこんな事を言い出した。

「ガストラ帝国になら会ったよ」

皆の目線が一瞬でリルムに集まり、次の言葉を待っていると“あの場所”だよと答える。

「私が居たあのでっかいお屋敷。あの場所にあったよ、帝国の絵」

「絵??」

「まぁまぁ上手だったかな」

今のところそれ以上の手掛かりが見つからずジドールへと向かう事になった。その途中、コーリンゲンの家で何か手掛かりが無いか確認に行くことが決まった。

飛空挺がそこへ向かう中、甲板に佇み風に髪を靡かせるセリスの姿があった。彼女は今どんな事を考えているんだろう。
嬉しいのか、それとも……そんな複雑さが垣間見えるような横顔だった---。


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