EP.88
ようやく仲間に会えた事で、一つの希望が見えた。
俺はセリスに他の皆と会わなかったか聞いてみたが、彼女自身も俺が初めて出会った仲間らしい。

「今まで何処にいたんだ?」
「私は孤島に居たの。おじいちゃん…じゃなくてシドに助けてもらって」
「シドが?」
「ええ。一年もの間、私を1人で看病してくれて」
「そうだったのか」
「シドが作ってくれたイカダに乗って初めて他の大陸に来たの。だから仲間に会ったのはマッシュが最初よ」
「そうだったんだな。先は長いけど、皆を見つけよう。ロックにも早く会えるといいな」
「ええ、そうね。とても会いたいわ……」

俯きながら小さく頷いたセリスの顔を見てると、何というか急に女っぽくなった気がした。でもそんなことないかと頭を切り返し、俺もセリスに今までの事を大まかに話した。

一年掛かったけどようやく1人見つけられた。この調子で他の仲間と合流して、さっさとケフカを倒して平和な世界に戻したい、そう思った。

ツェンの町で色々と聞き込みをすると、この大陸の東に蛇の道があって、もっと東に行くとモブリズがあると話してくれた。

久しぶりに聞いた蛇の道という名前。
あの時の騒がしさや大変だった記憶が蘇ってきて、ついつい笑みが出た。

「どうしたの?」
「いや、ちょっと思い出し笑い」

セリスがそれを気にするから、あの時の旅の事を話してやった。
すると可哀想だとか何だとか文句を言ってくる。

「何が?」
「何がって全部よ。普通そんな事させる?」
「仕方ないだろ。じゃなきゃナルシェに行けないんだからよ」
「とはいってもユカが可哀想だわ。気の毒ね」
「そこまで言うか」

普通の女の子だったら行かないと話すセリスは元将軍だ。
とはいえ、普通なら断ってもおかしくないかもしれない。つまり、俺達と流れたユカは普通じゃないんだなと話せば、セリスは何故か呆れていた。

ツェンで旅の支度をしてから、今度はモブリズを目指し歩いていく。
踏みしめる大地からは草木が消え、乾いた土地がヒビ割れをおこしていた。
吹く風に乗って流れてくる砂埃を防ぎながら、ようやく辿り着いたモブリズの町は本当に同じ場所かと疑うほど激変していた。

「町の殆どがなくなっちまってる…」
「ツェンで聞いたわ。裁きの光がこの町を焼き払ったって」

誰も居ないのか?とセリスに聞いた直後、村の奥から犬が飛び出してきて、いきなりこっちに向かって吼えてくる。するとその鳴き声に気付いた1人の男の子が姿を現した。

「うわぁ!誰か来た!!!」

逃げるように居なくなった子供を探していると、家の中に地下へと続く階段があった。それを降りて進んだ先には部屋があって、中に入ろうとする俺達の前に、さっきの子どもが立ち塞がってくる。

「ここから先にはいかせないぞ!ボク達だって戦えるんだ!」

必死に何かを守ろうとする子どもの後ろから、聞き覚えのある声が響いてくる。視線を前に向けると、奥の部屋から出てきたのはティナだった。
俺達が懐かしむように名前を呼ぶと、目の前にいた子どもが、ティナに向かって思いもよらない言葉を掛ける。

「ママ!!この人達、ママの友達?」

ティナはそれに対して何の躊躇も無く頷いてみせる。
一体どういう事なのか分からないけど、ティナとの再会は素直に嬉しいことだった。仲間が1人集まれば、益々ケフカを倒せる力が強まるんだから。
セリスは共に行こうと声を掛けたけど、ティナは短い言葉を残して奥の部屋へと消えていってしまった。

追いかけた先で声をかけると、ティナは戸惑いを口にする。世界が引き裂かれた日、モブリズに住んでいた親達は子供を庇い死んでしまい、村から大人が消えてしまったと。そしてここに辿りついた自分を、子供たちが必要としていると話した。

それを聞いて黙ってしまった俺達の所に、見知らぬ男女が近寄ってくる。そして、意を決したように俺とセリスに向かって怒鳴るように声を発した。

「ティナを取るな!」
「ティナがいなくなったら私達、支えを失ってしまう…」

2人の視線と子供達の視線、そしてこの言葉を聞いたティナが俺たちに言った。

「あの子達が何故私を必要としているかはわからない…私があの子達を守らなくてはならない理由なんてない。でも何か変な感じなの」

そして、悩みを抱えた表情で話を続けた。

「…この感情が私に芽生えたとき、私から戦う力が無くなってしまった…何かわかりかけているような気がするの。はっきりとは言えないけど…」

悲しそうに俯くティナ。そしてその答えを見つけようとすればするほど、戦う力が無くなっていくと話してくれた。

ティナの様子に俺とセリスは顔を見合わせる。
戦う力を失ってしまったティナ、そしてそんなティナを必要としている人達があんなに大勢いる。今ある現状を考えれば俺達が無理に連れて行くことなんて出来はしなかった。

だから、ティナをモブリズの村に残し、俺とセリスは家を後にした。

俺達が村を出て程なくて、大きな振動と魔法が発動する音が響いてきた。嫌な予感がしてセリスと一緒にモブリズの村に引きかえすと、そこには倒れたティナの姿があった。

「ティナ!しっかりしろ!くそっ…来るぞ!!」

ティナを庇うように立ち塞がり、俺とセリスの2人で巨大な怪物を相手に戦いを挑んでいった。
敵の強力な魔法攻撃をセリスが封じ、俺は力で仕掛けていく。息を切らすほどの鬼気迫る攻防が続き、体力が心配になりかけた頃、目の前の敵は戦うことを止め、俺たちの目の前から突然逃走していった。

どうにか相手を撃退し、倒れたティナを家の中まで運んでいく。ベッドに横になったティナは、自分の手の平を見ながらか細い声で俺たちに話した。

「やっぱり戦う力がない……」

子供たちがベッドの周りを囲み、心配した表情を見せる。不安そうにする声や、元気付けようとする声、連れて行かないでと頼む声が俺たちの心に響く。

“戦えないなら足手まといになるだけ…”そして子供たちが必要としているからこそ、この村に残る、とティナは言った。

だけど、平和を取り戻すためにはティナの力は必要だ。一緒に行こうと言葉をかけようとするが、心に芽生えようとしているものの答えを知りたいと話し、その後ティナは黙ってしまった。

首を横に振ったセリスに従い、俺達は家を出て行くことを決めた。
階段を上ろうと向かう途中、1人の子どもが怪物を追い払ってくれたお礼にと、魔石を手渡してくれた。
それを受け取り、今度こそ俺達はモブリズの村を後にして、次の町へと向かった。

戦う力を失ってしまったティナが気がかりだけど、あの村にいる事が分かっただけでも十分だ。答えを見つけられたら、きっとその時は俺達と一緒に戦ってくれるだろうから。

「マッシュ、次はこのまま蛇の道を通ってニケアに向かいましょう」
「そうだな」

セリスの提案に賛成し、俺達は道なりに沿って港町ニケアへと向かっていった---。


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