ささやかな日常。


「はぁ〜っ、あっちいあっちい…」
「ちょっ!?せめて下着くらい着けてきてよ!」


お風呂上がりにいつものように全裸でリビングに入ってくる恋人に、とりあえず文句を言ってみるものの…

「え〜。なんで?」っととぼけたようにへらりと笑って、あろう事かお尻をボリボリ掻きながら冷蔵庫からミネラルウォーターを出しゴクゴクと喉を鳴らしながら飲みはじめた。

毎度の事ながら、止めて欲しいと思ってしまう。

スポーツ選手の彼はやっぱりというか、流石というか。とても鍛えられた身体をしている。
だからこそ、困るのだ。そんな素敵な身体を上から下まで凝視し続ける度胸も勇気もない。


ジトリとソファーから彼を上目遣いでにらめば、フッと声を漏らして笑う。

付き合い始めはお互い相手の事がまだわからなくて、探り合うような感じだったけど。
付き合って2年。一緒に暮らし始めて1年も経てば、すっかり緊張感もなくなってお互いをさらけ出せるようになってきたように思う。

もちろん、それはそれで気を許しあえているんだととても嬉しい気持ちはあるけれど…あんまりさらけ出し過ぎではないだろうか?


「…おーい。ゆい?」
「……へっ?」


ボーっとしていた私の顔を覗き込んでくるたっちゃんの瞳とぶつかる。

目の前のたっちゃんの顔をジッと無言で見詰めていると、ニヤリと笑った。


「…そんなに見詰めんなよ」
「…え…?たっ、ンンッ」


唇に触れる柔らかくて熱い感触ー。

その途端私の太腿に押し付けられる熱いモノ…唇が離れる瞬間、これでもかっという程目を見開いて見えた彼の胸筋に腹筋。


そしてー。


勃起した彼自身。


「ちょっ、やだっもう!!」
「ははっ。ゆいがエロい顔して俺の事見るから、立っちゃったよ」


ヘラヘラ笑って、そんな事をさらりと言ってのける彼の意地悪な唇を塞いでやりたい。

たっちゃんはいつもマイペース。焦ったり動揺したりなんて中々顔に出したりしない。

ホント狡い。

そのへラリと締まりの無い表情をいつか崩してやりたいと思うのに、現実はいつも私が崩されてしまうんだ。

悔しいけど仕方ない。そんな貴方が好きだからー。


「ゆいも、脱いじゃえば?」
「はっ?何言って…」


私の服に手を掛けてニヤニヤしてるたっちゃんから逃げるように身体を動かせば、それが楽しいとばかりにギュウギュウと抱きついてくる。


「もうっ!やーめーてー!!」


ひとしきり抵抗を続けていればー。


「…へっくしょん!」


ズズッと鼻を啜る目の前のたっちゃんは「やばっ」とボソリと呟いた。


「…もう…風邪引いたらどうするの?早く服着て来なさい!」


グッと身体を起こして言えば、バツが悪そうに「…はい」なんて返事しながらシュンと肩を落として寝室に向かった。

その後ろ姿が何だか可愛くて口元が緩む。


さて、身体の冷えたたっちゃんに温かいコーヒーでも入れてあげようかな。少し乱れた服を直しながらキッチンに向かう。


こんなささやかな日常が、ずっと続けばいい。







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