▼ だって、好きなんだ(世良夢)
《だって、好きなんです》より
いつも元気で明るい君。
スラリとしたスタイルで化粧をしっかりしているからか、年齢よりも大人っぽく見える。
カツカツとヒールの音を響かせて、さっそうとクラブハウス内を闊歩する君は、俺より少し年下のはずなのに俺よりも大人に見えるんだ。
けどさ、俺知ってんだ。
本当の君は、カッコイイ女じゃなくて可愛くて、女の子らしい女の子なんだって事…
最近彼女が、ヒールじゃなくてスニーカーを履くようになった。
パタパタと、ヒールで走り回っていた時よりも軽やかな足どりで仕事をこなす姿に、俺の目線は釘付けになる。
(相変わらず頑張るなぁ〜)
時折監督に用があって、グラウンドに現れる彼女に見とれてしまう事がある。そういう時に限って、周りの人達に怒られたり、弄られて遊ばれたり…特に丹さんになんだけど。
そんな少し情けない姿を、彼女に見られてたりして笑われたりしてしまう。それでも、軽蔑するようなバカにするような笑いじゃなくて、凄く優しい表情で笑ってくれるから恥ずかしくて、情けないけど嬉しくも思ってしまう。
それでも…その笑顔は俺だけに向けてくれてる訳じゃないんだよな。
(俺なんて…背低いしバカだし…相手になんてされる訳ないよなっ)
そんな風にマイナスな考えで、1人落ち込んだりするくらい…君が、ゆいちゃんが好きなんだ。
最近有里さんからインタビューを受けて、好みのタイプは?っていう質問に、俺は真っ先にゆいちゃんが頭の中に浮かんで、明るくて優しい子っていう言葉が口から出ていた。
けど、有里さんがそれじゃ面白くないとかって言い出して、勝手に背が低い子って付け加えられた。その文面を見た丹さん達からは「巨乳好き」も追加しろと、有里さんに言い出して凄い汚いモノでも見るような目をされて、結局俺が嫌だと言ったのにも関わらず、再度更新されていた。
勘弁して欲しい…
会う人、会う人にクスクス笑われたり遠巻きに噂されたり。
俺別に、巨乳好きって訳じゃないのに…
そ、そりゃ…俺だって男だし大きい胸にはロマンを感じるけどさぁ、別に胸で選んでるんじゃないよ!
これ、ゆいちゃんも見たよな…?
「…はぁぁぁぁ〜〜〜っ」
おもわず廊下の真ん中で深い溜息を吐く。
「…あの…世良さん…?」
後ろからかけられた声に、ビクリと肩が跳ねる。
「…ゆいちゃん…?」
そろりと振り返ると、眉尻を下げて心配そうな表情をして、俺を見詰めていた。
「お疲れ様です。どうかしたんですか?溜息ついて…」
「えっ!?あっあぁ…いやいや、何でもナイよ!だ、大丈夫!」
アハハっと苦笑いで返せば、ジッと見詰めたままの彼女が、「…何でもないなら、いいんですけど…」って言ってふわりと笑った。
(…可愛いな…)
今日もスニーカーを履いて走り回っていたんだろう。額に汗で前髪が少しくっついていた。
俺は、本当に無意識に目の前の彼女の額に手を伸ばしていた。
「…つっ!」
前髪を上げて、持っていたタオルの、まだ使ってない端っこの方を彼女の額に充てて、汗を拭う。
見る見る真っ赤になる彼女の顔を凝視しながら、好きだって言いたいな。
そう思ってしまった。
「俺さっ…ゆいちゃんみたいに、明るくて優しい子が、好き…なんだ…」
「……えっ……?」
とっさに口から出た「好き」の言葉に俺は、答えを聞くのが怖くて…視線を逸らしてしまう。
シーンっと、何とも気まずい空気になり俺の顔や身体からは血の気がひいてくる。
「…で、でも私…巨乳じゃ、ないし…そっそれでも…いいですか…?」
しどろもどろで答えるゆいちゃんは、顔を真っ赤にしてかなり動揺してるみたいだ。
っていうかさ、巨乳じゃないって……そこを気にするんだ。
おもわず、口元がゆるゆると緩んできて、笑っちゃダメなんだろうけど、肩を震わせながら笑ってしまった。
「…なっ!なんで笑うんですかぁ!!」
真っ赤な頬を膨らませて言う彼女が、凄く可愛くて、俺は緩んだ口元のまま「ごめん、ごめん」と謝れば彼女も笑ってくれた。
《だって好きなんだ》
(言っておくけど、俺巨乳好きじゃないから)
(…そ、そうなんですか?)
(やっぱり、訂正してもらう!)
Q.世良選手の好みのタイプは?
A.う〜ん、好みっスか? 明るくて、優しい娘がいいっス!それと…
スニーカーが似合う頑張り屋の女の子。
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