君がくれるはじめての感情



胸の奥に感じる違和感に、俺は戸惑っていた。

モヤモヤして、ぎゅっと締め付けられる様に心の臓が焼ける程に熱くて、痛い―。

そんな風に感じるのは、決まって静が他の男子生徒といる時。それはテニス部のみんなと、楽しそうに話している時にも感じる。


「あ〜あ、手塚。また、ここシワ寄ってるよ。」


声のする方を向けば、不二が自分の眉間に指を充てて、ニヤリと笑った。


「…そ、そうか…」


眼鏡をクイッと上げて、視線を不二から逸らせばクスクスと笑う声に、また眉間に力が入った。


「ホント、手塚ってわかりやすくなったよね。」


わかりやすいとは…何の事だ。

俺はギロリと睨む様に、また不二の方に視線を向けた。何かを察したような不二が、スッとある一点を見つめて目を細めたから、俺もその視線の先に目を向ける。

それは、静と桃城や越前達数人が、休憩時間に笑いながら会話をしている光景だ。
ニコニコと、周りの者達と楽しそうに会話している静はマネージャー業も随分と慣れてきた様で、たまに危なっかしい事もあるが、一生懸命に仕事をこなす姿が微笑ましい。

テニス部を引退した俺達だが、時々こうして後輩達の指導をしに来ていた。そのたびに、最近自分でも理解出来ない感情に襲われる。


「…不二。俺は、どこかおかしいのだろうか…?」


ポツリと呟いた言葉は、俺の意図した所から外れて、無意識に漏れた言葉だった。

その時不意に、静がこちらに気付き目が合う。
その途端、ニッコリ笑ってくれた姿に俺の口元が緩んだ。


「…そうだね…おかしいかもしれないね。でも、そういう感情って広瀬さんだけに感じたりする事だろっ?いいんじゃないかな。」


そう言った不二が「やきもちも、ほどほどなら可愛いよ。」っと付け足して、テニスコートに入っていった。



やきもち…



俺が…?



自分では制御出来ないドロドロとした醜い気持ち。心臓が苦しくなるような切ない気持ち。

静とつき合って数ヶ月、俺の中にもそういった類の感情が芽生えるとは…


「…国光先輩。そろそろ休憩も終わりですけど…どうかしましたか?」


いつまでもコートの中に入って来ない俺を心配して、静が目の前にやって来ていた。
心配そうに眉を下げて、俺を見上げる表情に、おもわず口角が上がる。


「…いやっ…大丈夫だ。すまない…」


ホッと息をついて笑顔を向ける静は、こんな俺の心の内の感情など気付く訳もないのだろうな…

コートの中に歩を進めながら、静の髪をさらりと撫でる。


「…つっ!?国光先輩…?」

「…あまり俺にやきもちなど、妬かせないでくれよ。」


フッと笑って、静の耳元にそっと囁けば、見る見る瞳を見開き、真っ赤な顔して固まってしまった。






《君がくれるはじめての感情》

(静の事を想う度に与えられる試練なら…耐えてみせよう。)













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