はじめまして、恋 D



「ハァ〜…」


溜息をわざとらしくついてみれば、目の前の数人の女子が怯えたようにビクっと肩を跳ねさせた。
バスケ部のファンであろう彼女らは、ワシに対して媚びた態度を取る。

見た目も綺麗な子達やし、色気もあってスタイルもめちゃくちゃえぇ。
ワシがちょっと優しい態度取ってやればしな垂れかかってくる。


ホンマ、気色悪い。


「い、今吉くん…あっ、あの…」


オドオドしながら言葉を紡ぐ女子共をキッと睨んでやれば、バツが悪そうに「私達はただ、忠告しただけ」とか「その子が生意気だ」とか、言い訳ばかりしとる。

ワシから視線を逸らしながらブツブツと言い合っとる姿が、ホンマに醜く見える。もう一度ハァーっと盛大に息を漏らす。


「あのなぁ…あんたらにワシらの事をどう思われとるんか知らんけどな。こういうやり方は、感心出来ひんな…」

もう一度ギロリと睨みをきかせれば、怯えたようにバタバタと走り去って行った。


「おっ、おい!彼女に謝らんかい!」


あっちゅう間に姿も見えなくなる。
「まったく…」つい、ポロリと呟いて髪をくしゃっとひとかきしながら彼女に振り返った。

すっと、ワシの左頬にひやりとした感触がしてそれが彼女の掌だと気付くのに数秒かかった。


「おわっ!?びっ、びっくりした…」

「あ、あのっ!い、痛く…ない?少し、赤くなってるから…」


彼女の手が、少し赤くなったワシの頬を撫でる。




サワサワと、優しく。



戸惑いがちに―。



トクンと、一つ心臓が跳ねる。




「…ごめんなさい。」


へにゃりと眉尻を下げて、今にも涙が溢れんばかりの彼女の潤んだ瞳から、目が離せなくなってしまった。












********

あの後、濡らしたハンカチをワシに手渡してくれて何度も頭を下げられた。


「もともとは、うちの青峰のせいなんやし、怖い思いしたんはそっちなんやから…謝るんはこっちやろ?」


そう言ってやれば、やっぱり申し訳なさそうな顔して。そんでもやっと笑ってくれたから、ワシもホッとした。


「…今吉くんって、優しい人なんだね」

「……はっ?」


満面の笑顔で、ワシが優しい人だと言う目の前の女に、少しイラッとする。そないに簡単に心を許すのはアカンで…


「…あんたは、素直過ぎや。」

「…えっ…?」


キョトンと首を傾げて、ワシを見詰める彼女の瞳に映る自分自身が、滑稽に見える。




(君の汚れを知らないその瞳は、ワシの心をザワザワと落ち着かなくさせるんや…)












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