笑顔をくれる人

結弓さんへ相互記念




周りはザワザワと賑やかで、私は飲めもしないお酒をちびちびと飲む。


「ゆい。飲んでる?」


友人が私に声をかけてくるから、うんうんと首を縦に振って答えると、ニッコリとしながら男性と楽しそうに会話を始めた。

(飲むより、食べてますよ〜。)

なんて、口には出さず焼鳥をほおばる。

何故か今日は地元のサッカーチームETUの選手との合コンに連れてこられた。

私の友人達は、みんな今時の女子大生。

私はといえば、高校を卒業して進学はせずにパン屋に勤めて2年。
みんな可愛くて、着飾って眩しいくらいだ。

まぁ、私は人数集めに過ぎないのだから別にいいんだけどねっ、なんて強がってみるけど本当はとても羨ましい。

(あっ…やっぱり笑った顔は可愛いなっ。)

友人達とワイワイ楽しそうに話している、ある1人の男性に目が行ってしまう。

世良恭平さん。

実は、サッカーはあまり詳しくない私でも彼、世良さんの事は知っていた。

私の勤めているパン屋は、クラブハウスの近くの商店街の中にある。たまに彼が店にパンを買いに来る事もあった。
もちろん、彼は私の事なんて覚えてないと思うけど…たまに店にやって来る世良さんは、イロイロなパンをそれは嬉しそうに眺めながら、店長の奥さんにこれはどんな味なんすかって聞きながら楽しそうに選んで買って行く。

その姿がとても可愛いくて…

私は密かに彼に好意を持っていた。

だから、今日はびっくりした。まさか…合コンメンバーの中に彼がいるなんて―。

話しかけたい、近づきたい。私に向かって笑いかけて欲しい。

そう思っても、私には勇気がなくて離れた席から彼を見つめている事しか出来ない。

焼鳥をほおばってる自分に色気もないなって、情けなくなる。


「あれ〜っ?あんまり飲んでないんじゃない?」


ボーッとしている私の隣にドカリと座り込んで、顔を覗き込んできた人に一瞬ドキリとした。

(うそっ…なっ、なんで…)


「えっと…大丈夫?」


私が思い切り固まっていた為、目の前の彼が心配そうに眉を下げた。


「…具合悪い?」


どんどん心配そうな顔で私を覗き込む彼に、私は必死に声を絞りだし「大丈夫です」と答えると、「よかった」って言って満面の笑顔を向けてくれた。

もう、なんなのこの人。可愛すぎでしょっ、世良さん!

私の隣には世良さんがいて、私を心配してくれている。


『あっ、あの…心配させてしまってすみません。』


ペコリと頭を下げると、世良さんはちょっとテレたように頬をポリポリ掻いていた。


「…いやっ、なんかつまらなそうにしてたから…だってさっ、君いつも楽しそうにパン屋で働いてるじゃん。」

『…えっ…』


知っててくれてたんだ…


「俺…君の笑顔見るの楽しみで、買いに行ってたんだ。あっ!もちろんパンも美味しいからだけど、さっ!」


私はたぶん、真っ赤な顔してたと思う。だって…
世良さんの顔も真っ赤になっていたから。


『私も…世良さんの笑顔見るのが楽しみでした。また、お店に来て下さいね!待ってますから。』

「もちろん!毎日でも行くよ!」


急に大きい声で言ったから、周りの人達に注目されてからかわれる世良さんが、やっぱり可愛いと思ってしまった。







《笑顔をくれる人》

(あなたを見ていると、自然に笑顔が溢れてきます。)












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