1_無双
学校からの帰り道、近道になるからと通る小さな神社。
何かが出そうな気配もある静かな場所だ。不審者がでるかも、なんて言われたが今日みたいに帰りが遅くなった日はいつも通ってしまう。
それが、いけなかった。
「娘」
暗い神社で声をかけられるなんて思っていなかった私は、驚いて足を止めてしまった。
近づく足音に動くこともできずただ、足が震えているな、と思った。
「そこの娘」
「!」
肩に何かが触れた途端、気が付けば私はそれを振り払っていた。
「…あ、」
振り払った拍子に自身の体の向きが変わり、私を呼んでいた声の主が視界に入った。
主は、驚いたようで目を二、三度しばたたかせた後、首を少しかしげた。
「すまない、驚かせたか」
「す、すみません。怪しい人かと思って」
声の主は黒髪に和服の男だった。神主なのかもしれない。
申し訳ないことをした。
「こちらが悪かった。怪しいものではない、俺は大谷吉継という」
「大谷吉継?」
どこかで聞いたことのある名前だ。
たしか、授業で聞いた気がする。日本史、だったか。
しかし、日本史で習った大谷吉継は猫の耳のような帽子は被っていなかったように思う。
同姓同名なのだろうか。
そんなことより、その大谷さんはどうして私に声をかけたのだろうか。
疑問に思っているとそんな視線に気が付いたらしい彼が口を開いた。…いや、口は隠れてて見えないけれど、話す気配がした。
「そうだ、ここはどこだ?俺はそれがききたかったのだ」
「ここですか?神社、ですね」
神社?と再び彼は首をかしげた。
「付近に神社はない、と思っていたが」
「一体どこから来たんですか?」
そう問えば彼の持っているはたきのようなもので、ご神木を示された。
「木の穴を抜けたら、そこに出た」
「え?異次元にでもつながってるんですか?」
二人でそのご神木の前まで行く。
私にはただの木にしか見えない。
穴の中に手を伸ばしたが、木の内部に触れただけで何も起こらない。
しかし、大谷さんが手を伸ばすと、その手は木の更に奥までずぶずぶと進んでいった。
「本当に別の世につながっているようだな」
「…みたい、ですね」
「ここが別の世なら、俺のいるべきところはここではないのだろう。流れを変えるわけにもいかないからな」
すぅ、と木に消えて行った男に、私は狐にでも化かされたのか、と思った。
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