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ぼんやり、と視界が明るくなる。
目を開けてそちらに顔を向けると、光が見えた。
障子があいて、その間から太陽の光が溢れているのだろう。
その光を背に、誰かがそこに立っていた。
ふと、私の家はこんな和室があっただろうか、と浮かんだ。
しかし、寝起きの頭では回転が遅く、考える間もなく次の疑問にぶち当たった。
「運の強い奴だな」
聞き覚えのない男の声に驚いて身体を起こせば、全身が悲鳴を上げた。
「ぐぅ…!?」
あまりの痛みに己の喉奥から漏れた悲鳴が、やけに低い。
「無理をするな、けがをしたのを忘れたのか」
こちらに近づいてくる男を睨むように見た。
この男は誰だ、不法侵入者か、それとも私を誘拐したのか。
「…誰、なの?」
乾く喉からようやっと絞り出した私の声は、男性特有の低いものだった。
「…誰、だと?」
「!?」
ぐっ、と胸元をつかみあげられて身体を強引に引き寄せられる。
けがをした、と言ったのはこの人のはずなのに、乱暴にされてまた身体が痛んだ。
「痛い、痛いです!」
「その痛みは罰だと思え」
「どうして!」
「主君を忘れるものがどこにいるっ!」
「し、主君!?」
この男がか、とその男の顔をよくよく見ればどこかで見た顔だった。
知り合いではない、しかし知っている。この男は、ゲームのキャラクターだ。
「私の名前を言ってみろ!」
「い、石田三成…っ」
戦国BASARAというゲームのキャラクターである、石田三成だ。
「では、お前の名は!?」
「私、私は…」
如月れん。それが私の名前だ。
しかし、どうも様子がおかしい。私は女だ。しかし今は胸がない、声が低い、見える景色が違う。
それに石田三成の様子を見る限り、私は石田三成がよく知っている誰か、なのだろう。
どう答えたものか、悩む間にもぎりぎりと襟元が締め上げられる。
”左近”
「え?」
頭の中に、突然声が響いた。
「さ、こん?」
それを聞いて三成は私の襟元をつかむ手を放した。
「わかっているならはっきりと答えろ」
「す、すみません…」
襟元を正し、布団の上に正座する。
どこかに鏡はないだろうか。己の顔を、姿を確かめたい。
「動けるのならいい。またすぐに働いてもらうぞ、左近」
「え」
働く、って戦ってことだよね?
まさか、殺し合いをしろということだろうか。
「不満か?」
主君三成の鋭い視線が突き刺さる。
「い、いえ!喜んで働かせていただきます!」
その言葉に満足したらしい三成は、ふん、と鼻を鳴らすと部屋を出て行った。
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