はっぴーばーすでー ぱち






久しぶりに深谷の夢を見た。
いつもとは全く違うシチュエーションに初めは驚いたが、所詮は夢なのだから、と楽しむことにした。

そのシチュエーションとはなんと、俺の寮の部屋に深谷がいるのだ。薄暗い部屋の中でベッドに腰掛け、手を伸ばせばすぐに届く距離にふたりでいる。


「深谷」


名を呼べば彼女はピクリと肩を揺らした。
何も言わないのはこのなんとも言えない妖艶な雰囲気に緊張しているからだろうか。
隣りに座る彼女の手を握ると、彼女もためらいがちではあるが握り返してくれた。


「…と、東堂君…」


「なんだね?」


やっとこちらを向いてくれた、と心が弾んだ。感情を表に出さぬよういつも通り自然に答えるが、俺ですらこの空気にのまれそうになっていた。


「これ、夢かな」


戸惑いがちに呟かれた言葉にうなずいた。


「ああ、夢だろう」


夢だよ、と俺自身に言い聞かせるようにもう一度告げると彼女は安心したように微笑んだ。


「そっか、夢でも幸せ」


いつも通り可憐な笑顔で紡がれた言葉に、めまいがした。
ささやくようなか細い声で、しかし確実に彼女は幸せと言った。


「お、俺とこうしてるのが幸せ…なのか?」


「うん。幸せだよ…だっていつもだったらこんなことできないもん」


ただ握るだけだった手はいつの間にか互いに絡み合っていて、二人の距離もほんの少し体を揺らせば触れてしまうほど近くなっていた。


「深谷は俺が好きか?」


夢ならば夢として楽しもう、と決めたのは俺だけではないようで、深谷はいつもよりも子供のように笑う。


「東堂君は?私の事好き?」


「もちろん好きだ」


「私も好きっ」


深谷は照れて顔を赤くしながらも、素直にそう言ってくれた。


「これが夢でなければいいのにな」


絡めていた指を離し、空いた手で彼女の肩を引き寄せた。
そうだね、と呟きながらそのまま自然に彼女の頭は俺の肩にもたれかかる。


「夢じゃなかったらこんなこと恥ずかしくてできないよ…」


甘えるようにすり寄る彼女の頬にもう片方の手を当てた。


「では、現実でも恥ずかしくならないように夢で練習しておくか?」


返事の代わりに目を閉じた彼女の唇に視線が集中する。
徐々に互いのそれが近づき、触れ合うその瞬間、


「…――!!」


目が覚めた。







夢見る。
(いつか彼女と本当になれたら…)





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