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男の子を拾った。

男の子は私の住むアパートの軒下で、自転車と雨宿りしていた。
はじめはびっくりした。辺りも薄暗かったから。それにその子、結構身長が高いのに手足は細く長くて、体を折りたたむようにして座っていたから。

夏とはいえ、さすがにいつまでもそこに居たら冷えるだろうと思い声をかけることにした。


「ねえ、君。どうかしたの?」


声をかけると彼は大きな瞳でじっと私を見た。
顔を上げたのでその時によく顔が見えたのだが、それは私の良く知っている顔だった。


「み、どうすじ…?」


「御堂筋くん、や。それよりなんでボクの名前知っとるん?キモッ」


なんだか眩暈がした。私は疲れているのだろうか。そんなに毎日の仕事が生活がストレスになっているのだろうか。

目の前にいる彼は御堂筋翔らしい。しかし彼は漫画の中のキャラクターだ。現実に存在するはずもない。


「…ふざけてないで家に帰りなさい。もう遅いんだから…まだ学生でしょう?」


そう男の子に告げると無表情で、家なんかないわ、と流暢な京都弁で帰ってきた。


「家がない?」


「そうやで、家もガッコも何もなかったんや」


まさか、と思った。
漫画のキャラが現実に存在するわけがない。きっと私はからかわれているだけだ、と思ったがこんな時間まで悪戯をするためだけにとどまっていたとも思えないし、何より小さめのDE ROZAをわざわざ買うほどの悪戯は普通しないだろう。


「…どういうこと?」


「普通に学校から帰ったら家だったとこがアパートになっとったんや。学校戻ったらそこがさら地って、いまどきべたなアニメでもやらんわそんな展開」


アニメでもやらない展開という発言に、せやな、と思わずうなずきそうになった。彼のペースに乗せられるわけにはいかない。

本当にこの子は漫画の中の御堂筋くんなのだろうか。だとしたら大変なことだが、まさか、と疑ってしまう。
頑張ってね、と言って立ち去ろうとすると袖を掴まれた。


「な、なに?」


「ボク、昨日からなんも食べてないんや」


「そ、そう。それより離してくれない?」


「いやや」


まん丸い目でじっと見つめられると、なんとも逃げたくなる。
少し恐ろしく感じるのと、彼の過去を知っている分甘やかしたくなってしまうのだ。


「で、電話で家族に連絡するとか…」


「出ぇへんかった」


表情を全く変えず、悲しくも辛くもなさそうなまま見つめられる。

私は、この無表情な目に弱いのかもしれない。


「…わ、わかった…ご飯食べさせてあげるから家においで」


こうして私は男の子を拾ったのだ。









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