1
「Maestro,コーヒーです」
「ん、ありがとう」
Maestroは眉間にしわを寄せつつ目線を書類の積み上げられた机の、端の端、どうにかカップ1つ置けるほどの空いたところに向けた。私はそこにそれを置く。
「…ああ、ちょっと待ってくれ」
「はい」
コーヒーカップを置いて立ち去ろうとすると呼び止められた。
「これ、どう思う?」
Maestro - わが師、スティーブン・A・スターフェイズは一枚の書類を私に差し出した。どうやらそれは履歴書のようだ。
「”ジョニー・ランディス”?」
聞きなれない名前に、新入りなのかもしくは引き入れようとする新たな者なのか、と判断した。
その判断は正しかったようで、うん、と彼は頷く。その目は、どうだ、と私に問いかけている。
それに私は首を振った。横に。
「だめ?」
「だめ、とかではなく。私にそれを決める権限はないので」
私はあくまでこの秘密結社-ライブラ-に所属しているスティーブン・A・スターフェイズの秘書なのだ。ただの部下である。
「クラウス様にお聞きした方が良いのでは?」
「うーん」
苦笑い。
ふむ、この様子ならクラウス様は彼を引き入れる気満々なのか。
「まあ、そうなっちゃうんだろうけどねぇ…」
いいよ、認めよう。
そう呟いて彼は書類にサインをした。
「ところで、なまえ。僕はMaestroではなく、スティーブン、と呼んで欲しいんだけれどな」
「了解しました、スティーブン先生」
彼が眉にシワを寄せたのを確認し、私は改めて執務室のドアを閉じた。
[ 2/4 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]