ピアスあけたい、と、そう口にしながら博は俺の耳たぶをぐにぐにと好き勝手にいじくる。りゅーへーはどーやって開けたの。耳たぶを引っ張って伸ばして、急に手を離して。おそらく俺の穴の具合でも眺めてるんだろう。あのさー、乱暴にすんのやめてくんね。うわ、聞いた今の。竜平が乱暴はやめてって言った。ほんと、竜平くんにだけは言われたくないわよねー。ああ、うるせえ、うるせえ。心地の良い雑音が、異物を取り去られたままのピアスホールをすり抜ける。

「んでさ、どうやって開けたの」
「フツーに安ピン」

博の表情がみるみる凍りつく。全然似合ってないオレンジのTシャツとは正反対にどんどん色を失っていく顔面。そんなにびっくりすることかね。別に、ライターで殺菌したからだいじょぶだったけど、と付け足すと、ついに博は涙を浮かべながら、手鏡で自分の顔ばかり見つめているヅキに縋りついた。

「やっぱり竜平やだ!こわい!」
「あんたねー、そもそもなんで竜平くんに聞いたの。竜平くんがちゃんとピアッサー買う人に見える?」
「見えない!」
「でしょ?博くん邪魔だからあっち行って」

ヅキの怪力に容赦なく突き飛ばされ、体勢を崩した博が床に座る俺の膝に仰向けに倒れ込む。あ、これって膝枕みたい。なんちって。

「うー、これじゃヅキにも頼めない」

俺の膝にちゃっかりと頭を乗っけたまま、博は甘ったれた声を出して俺の顔を見上げる。むかつく顔。わざとらしい舌っ足らず。誘ってるみたいな声。ああ、なんで今、ふたりきりじゃないんだろう。

「俺がやるし」
「竜平怖いからやだぁ」

ピアスホール。耳に穴。穴、穴、穴。
博の耳たぶに、穴。身体の一部に、穴。博の身体に。

「俺がやる」

背中を丸めて覆いかぶさる。耳たぶにカチリと歯を立てる。
ふわあ。博はやっぱりわざとらしく甘い声を出しながら、小さく身体を震わせる。
安ピン嫌なら自分で開けるやつ買ってこいよ。えー、俺が買うの。オレはおめーの財布じゃねっつの。違うの?まじしね。
博は俺の膝を枕にしたまま、意味ありげな両腕で首筋を絡め取る。ねえ、痛いのかな。怖いのかな。それって。
それって、なんかさ。

「竜平が俺に穴、開けてよ」

いとも簡単にぺろりと耳たぶを食べられて、今度身体を震わせるのは俺の方。

「つーか、俺以外禁止、だし」

ああ、やっぱり今日はふたりきり。ふたりきりがよかった。








END.
(20110620)

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