「もう俺らも受験生なんだよな」

修学旅行が終わり、土日の休みを挟んでの登校日。
二人だけの放課後になんとなく立ち寄った川原で博が呟いた。

「何面白いこと言ってんの」

そういえばさっきのホームルームで担任がそんなことを言っていたような気がする。
普段は俺以上にぼけっとして人の話なんて聞いてない博があんなつまらない話をちゃんと聞いて、しかも放課後になるまでその内容を覚えているなんて変なこともあるもんだ。

「俺ら、死ななかったじゃん」

川原で体育座り。自分の両膝に顔を埋めてぼそっと一言。
なんか、青春みたい。

「死ななかったって」
「俺、なんとなく思ってたんだ。修学旅行で、プログラム連れてかれるんじゃないかって」

プログラム。
口に出すのもおぞましい、例のアレ。
全国のどっかの中学3年生が殺し合いをさせられる、理不尽極まりない国のお遊び。

「おまえそんな不吉なこと考えてたんだ」
「考えない方がおかしいって。誰かは選ばれるんだよ?だいいち実際修学旅行終わったからって安心できないし」

うなだれていた顔を上げて空を見上げる瞳は、いつもの博と違う気がした。
いっつもへらへらして俺のあとついてきて、そんなんだけどいっつも楽しそうな普段の博とは違う気がした。

「だけどなんとなく、これでもう終わった気がしたんだ」

本当は、少しだけ聞きたくなかった。
だけど反射的に俺は口にしていた。
すごくすごく聞きたくなかったその言葉を博の口から捻り出す一言を。

「なにが」

なんでかわからないけど、泣きそうになった。
今すぐに耳を塞ぎたかった。
俺は先のことなんて考えないし、今が楽しければいいって考えだし、それを変えるつもりなんてないし、
誰にも口出しなんてされたくないし、それに、それに、

「猶予期間、みたいな」

みんなだって、博だって、それは同じで、ずっと、ずっと、一緒のままで。

「そんな言葉知らない」

博と目を合わせないまま、俺は小さく呟いた。







END.
(20070907/20110507)

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