終点の駅に着き、私は車内の清掃とメンテナンスをしていた。クダリはホームのベンチに座って自動販売機で買った菓子を頬張っている。
作業が終わって一息ついた時、目の前に先ほどのモニターに映し出されていた少女がやってきた。無機質な液晶で見た時の印象とは異なり、言い方は悪いがどこか抜けてそうな、そんな雰囲気。



「こんにちは、お疲れ様です」



なにかあったのだろうか、その表情はバトル中よりも真剣で険しい。



「どうかされましたか?」

「私、アスハっていいます
サブウェイマスターのノボリさんですよね
今回は途中で負けてしまいましたが、いつか必ず、あなたを倒します!」



…そんな大声を出さなくても。
ホームに少女の声がエコーがかって響いていった。



「そうでこざいますか
楽しみにしております」



一礼すれば、柔らかく微笑んで同じように頭をさげる。
この少女には悪いが、私はこの時その言葉を信じていなかった。あのバトルの様子では到底無理であろう、せいぜい5連勝が関の山だ、と。それほどあのバトルはひどかった。彼女のパーティのポケモンは進化したものはなく、技も偏っていて相性が限定される。真剣さは認めるが。



「あの……」



顔をあげた少女は気まずそうに視線をふよふよ動かして、指を組んで言った。



「カナワタウンへはどう行くんですか?」

「カナワタウン?」

「ほんとはカナワタウンに行くつもりだったんですけど間違えちゃったみたいで」



ああ、やはり抜けている。
このトレインはカナワタウンの逆を行くのに、案内板を見なかったのだろうか。
話を聞くとホウエン地方からカナワタウンへ引っ越してきたようで、イッシュを見て回った帰り道のようだ。それでトレインを間違え、訳のわからないままバトルをさせられたらしい。



「今までバトルは見ていただけだったので、実際バトルしたのは初めてなんです
この子達、父から譲り受けたんですがうまく扱えなくて……」



腰にある小さい3つのモンスターボールを指でなでて恥ずかしそうに笑う。そして私を見て言った。



「バトルって楽しいですね」



楽しい。

私は仕事柄あまり自由がない。サブウェイマスターの代わりがいないのだから、休むことも滅多なことがなければできないのだ。しかしそれを苦痛とは思わないし、辛くもない。サブウェイマスターという役職に誇りを持って勤めてきた。
ただ、バトルができなくなった。
挑戦者は私の前の20人の壁を乗りこえることができずに、諦めて再び訪れることはなくなる。
朝早く夜遅いこの仕事。バトルをする機会はサブウェイマスターになる前とは目に見えるように減っていった。
私は、バトルしたいと願っていた。
だがそれは楽しむためではなく、溜まった鬱憤を晴らすことに近くなってきていた。
ポケモンは人間の道具ではないのに。
共に戦い、絆を深め、お互いの力をより磨いていく。
それがバトルの醍醐味であり、楽しみなのだ。



「…あなたが私の元へたどり着き、お相手させていただく日を心待ちにしております」



大切なことを思い出させてくれた彼女と、心から戦いたいと思った。



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