『モノズ、かみつく!』
モニターに映し出されているのはとある少女。歯を食いしばりながら前をまっすぐ見つめ、声が割れていても構わずポケモンへと指示を出している。それはとても的確とは言えないが、まっすぐではっきりしていて、そのバトルへ対する真剣さが場面越しにも十分伝わってきた。
「ノボリー
あれ、新しい子?」
クダリが私の首へ腕をまわし、首を曲げながらモニターを覗きこんできた。肩に乗る腕をどかして答える。
「そのようです
しかしこの様子では私の元へいらっしゃることはなさそうですね」
「わ、ノボリつめたーい」
「冷たいもなにも、この方の力量では難しいでしょう」
「かわいそー」
「…クダリ、あなたなぜこの車両に乗っているのですか」
ここはシングルトレイン、私が車掌を勤めている車両だ。クダリが担当しているのはダブルトレイン。
クダリを見ると、屈託のない表情でへら、と笑った。
「あのね、間違えちゃったみたい」
「…そうですか
なら次の駅で降りて徒歩で戻ってくださいまし」
「あんな遠くまで歩けないよー」
「……はあ」
双子なのになぜこれほど性格が正反対なのだろう。
ため息をついてモニターを見ると、もう勝負は終わっていた。結果は少女の敗北。悔しそうにモンスターボールを握りしめて座席に座っていた。
ああ、またか。
この少女も私の元へはたどり着けない。
「どうしたの?」
「?」
「痛いの?
悲しいの?」
その手袋を着けた手でペタペタと顔を触ってくる。心配されるほど複雑な表情はしていないと思うが……。
「…心配しているような顔ではありませんね」
「仕方ないよ
笑う以外表情が作れないんだから
ノボリだってそうでしょ?」
確かに。
私はクダリのようには笑えない。
back