暗い道を2人と一匹で歩く。
目を何気なく、さりげなく拭いていると、デンジが話しかけてきた。



「ミノリ、泣くなよ
悪かったって」

「…泣いてねーよ
何に謝ってんの」

「さっきミノリのこと女らしくないって言ったり、暗いのダメなのに今こうやって停電させたり」

「いーよ別に
ほんとのことだし
停電だっていつものことでしょ」



謝られると本当に傷つく。
そんなの、女らしいと思ってない証拠じゃないか。
…真実だけど。



「今度お前が電気使いすぎてもいいようにソーラーパネルでも道に張りつけとけば」

「…あ、そうか
そのアイデア使わせてもらう」

「アイデア費よこせ」

「チッ、わかったわかった
…ん」



一瞬、何が起きたかわからなかった。
気がつくと私は、デンジに抱きしめられていたんだ。
ぽかん、と口を開くしかない。



「…え、え?」



これはなに?
なんのつもりでやってんの?
頭で混乱してても、体は正直といったところか。
顔は真っ赤になって脚が震える。



「これは友情ハグ……?」

「…さあな」

「はは、友愛友愛」



ひきつった笑顔で背中に手を回した。
落ち着け、これは友情ハグだ。
期待なんてするな。



「つかそんなんじゃアイデア費になんねーし!」



デンジの胸を押して、体を離す。
嘘だ。
本当はすごく嬉しくて、私のちんけなアイデアとは割りに合わないほど大きかった。



「…なんだったらいいの」

「そうだな
あ、オーバ呼んできてよ
久々に会いたいし」

「………………」



デンジの表情が強ばった。
眉をひそめ、前を向いて歩きだす。
レントラーを見ると、首を振ってデンジの後に続いた。

…なに。
なに怒ってんの。
オーバのこと嫌いになったの?
もうあの頃には戻れない。
不意にそう思って、また涙ぐんだ。



◇◆◇◆◇◆



「なにこれ……!」



あれから数日経ってジムへ行ってみると、入口のところにビーコンバッジが腐るほど入った箱が置かれていた。



『ご自由にお持ちください』



機械の声が私に言う。
あいつ…!
ついにジムリーダーより電気屋を取ったか……!!



「デンジ!
てめ―…え?」



バッジ入りの箱を脇に抱えてジムへ入ってみると、以前来た時とレイアウトがまったく違っていた。
デンジは気が向くとすぐにジムの仕掛けをいじる。
その度にジムトレーナーや私は、いちいちそれを解読してデンジに会いに行っていた。
今日は、まさにそれ。



「あ!?
なんでその道が回んだよ!
止まってろ!」



ボタンを踏んではイライラし、私がくるくる回ってる様を悠々と見ているデンジにまたイライラする。
もういっそのことここから飛び降りて、あいつのいるとこによじ登っちまおうか。
やっとこさデンジのところにたどり着いた時、私はイライラMAXだった。



「デンジ…、なにこれ」

「バッジ」

「んなことわかってんだよ!
なんで配布してんの!?
こーゆーのってふつうバトルして負けたら渡すもんじゃないの!?」

「手応えのないヤツばかりだったから
オレが勝ち続けてバッジ誰にも渡さないより、こーやって配って欲しいヤツに渡した方がいいだろ」

「…手応えのない?
そういうヤツらの力を引き出したバトルをしたり、アドバイスするのがジムリーダーじゃないの!?」

「………………」

「デンジはジムリーダーより機械いじりがよくなっちゃったのかもしんないけど、ヒョウタ君はジムリーダーも採掘も両立してる!
もうちょっとヒョウタ君見習ったら!?
オーバが今のテメー見たらどう思うよ!?」

「…ミノリにジムリーダーのなにがわかんだよ」



デンジの冷たい目が私を射抜く。
初めてだ、こんな顔。
今までどんなに怒らせても、こんなに睨まれることはなかった。
なにが琴線に触れたのかわからない。
私は対処法がわからず、ただ思ったことを汚く怒鳴ることしかできない。



「何もわかんねーよ!
私はてめーみたいにジムリーダーじゃねえからな!」

「だったら口挟むなよ
ジムリーダーはオレだ」



ジムリーダー、ジムリーダーって……。
私に対する当て付け?
どうせ私にはなにもない。
だから、持ってるデンジのそんな態度がムカつくんだ。



「…わかったよ
じゃオレがデンジを倒してやんよ」

「…あ?」

「旅して、強くなって、オレがテメーを倒す!」



どこぞのバトル漫画のセリフを吐いて、ジムから出た。
昔のクセが出ていることにも気づかないほど、ムカついてる。
私は脇に抱えたバッジの箱を、地面に叩きつけた。



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