放課後、バッグの中に弁当箱やらケータイやらを入れて肩にかけた。
教科書?
そんなもの持って帰んないよ。
だって勉強する気もないし、重いし。

学生の本分から外れているけども、大抵の子はテスト前でもないかぎりそうだと思う。
ただ、他者の追随を許そうとしない成績優秀な子や、成績優秀でなくとも真面目な子、受験勉強しようとする計画性のある子、親に勉強してますよアピールしようとしてる子は持ってかえるんだろうけど。
でも私にはそんなこと関係ない。
そう、本当に関係ないんだ。

きゃいきゃい笑ってる子達を尻目に教室から出る。
…はっきり言うと、羨ましい。
中2の時は少なからず友達はいた。
でもその子達は新しくできた友達と仲良くなって私のことはもう頭にはないんだろう。
でも当たり前、それが普通なんだから。
私も話しかけたりして積極的になればいいんだろうけど、余計なことばかり考えてうまく話せない、関われない。
人というカタチの中にある心が怖いんだ。
なにを思っているのか、なにを感じているのか、怒ってはいないか、嫌ってはいないか。
もしも心が見えたのなら、こんな気持ちになれずにすんだのだろうか。

そう考え、首をふる。

たとえ心が見えたとしても、嫌悪感を突きつけられればきっと私は壊れてしまう。
自分が情けなくて恥ずかしくて悲しくて、とても耐えきれないだろう。

私はめんどくさくて弱い、くだらない人間なんだ。


靴箱で上履きからローファーに履きかえていると、後ろから声をかけられた。
振り向けば、鮮やかなオレンジ色の頭。
一目でわかる。
不良だ!!



「お前……」



カツアゲ!?
カツアゲか!?
身じろぎして視線を泳がせる。
すると、オレンジ頭の人の肩に手が置かれた。
ガシッと効果音がつきそうなほど強くつかまれた肩。



「あんた、こいつになんの用?」

「証!」



現れたのは、証だった。
証は半ばにらみつけるようにオレンジ頭の人を覗きこむ。
相手もなんだ?、といった怪訝な表情で証を見返した。
オレンジと金。
普通ならありえない髪色が並んだその光景は、ヤンキー同士のケンカの直前のようで、周りにいた生徒はさりげなく私達から離れていった。
数秒して、オレンジ頭の人が息をつき、肩にある証の手をどかす。



「別に、ただこいつが変だったからよ」

「へ、変!?」



どこが!?
顔!?
なんかついてる!?
ひきつりながら両手で顔をペタペタ触っていると、オレンジ頭の人が慌てたようにちがうちがうと首をふった。



「そうじゃなくて、その
お前の周りっていうか、お前っていうか……
…ああ、やっぱなんでもねえ
悪かったな、忘れてくれ」



そういってオレンジ頭の人は、背をむけて歩いていってしまった。
それを見送ると、証は小さく舌打ちをしてから私の頭を叩いた、グーで。



「いたっ」

「お前はなに絡まれてんだよ!
俺が来なかったらやられてたぞ!?」

「…ごめんなさい」

「…ま、わかればいいけどよ」

「でも、友達作るチャンスだったかも」

「…は?」

「あーゆうのから友達に発展したりするかもしれないじゃんみたいな?」



最初は印象最悪でも、もしかしたら仲良くなれるかもしれない。
人の出会いは思いがけないところに転がっているとなんかの本で読んだ気がする。
そんな私の前向きな考えに、証はまた頭を叩いてきた、今度はパーで。



「お前はあれだな、うんこだな
あーゆーヤツはいいように使われて終わりだぞ?」

「…証も見た目ヤンキーじゃん
不良じゃん怖いじゃん」

「ばっ、俺は優しいよ!
つかお前とは長い付き合いだし、そこんとこわかってんだろ?」

「まあね」

「…とりあえず、黒崎一護には関わんなよ
あんまいい噂きかねえから」

「あ…、聞いたことある
こないだ暴力事件起こしたとかで」

「そうそう」



あまり浮かない顔の証に微笑み、わかったと頷いた。
証はにっと口元をゆるめ、もう一度頭を叩く。
そしてわしゃわしゃと乱暴になで回してから別れの言葉を口にした。



「じゃ、俺はこれから部活だから
気をつけて帰れよ」

「おうよ
そっちも、気をつけて部活しろよ」

「なんだよそれ」

「その頭で先生とかに目をつけられてフルボッコにされんなよ」

「は?
俺を誰だと思ってんの?」

「バカ、ヤンキー、金髪、あと」

「あーわかった、もういい
…真冬」

「ん?」

「なんか悩みあったら言えよな
じゃ」



照れくさいのか、言い逃げに似たようなかんじで足早に去っていく証。
その背中を見つめながら、小さく笑った。

…心配させてしまったか。
少し申し訳なく思いながらも、証の気持ちが嬉しかった。
証のこういった思いやりだとか優しさに昔も、今も、何度も救われてきた。
気づかってくれる人がいる。
それだけで元気が出た。

心が軽くなった私は、同じように軽やかな足取りで外へ踏み出した。



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