連れてこられたのは“浦原商店”と書かれた看板のある駄菓子屋さん。
浦原、ということはこないだ気絶した私を寝かせてもらったあの場所なのだろうか。

やっと白哉の腕から解放されたけど、少し惜しく思うこの気持ちは心の奥に封印しよう。

ガラス戸の奥を見つめていると、中からなにかが顔を出した。
真っ黒で金色の瞳を持つ猫。
猫好きな私は、目を輝かせてしゃがみこんだ。
おいでおいでと手を伸ばすけど、虚に咬まれたのを猫のおかげで忘れていた私は、腕の痛みに唸り、よろ、とよろめく。
それを見た白哉は眉間にしわを寄せて私の肩を抱いて支えてくれた。



「あ、ありがとう」

「おぬしか、喜助の言っていたおなごは」



低くしゃがれた声。
びっくりして声のした方向を見ると、可愛らしい猫しかいない。
猫はこっちを見ていて、視線が重なった。
猫の瞳がスッと細められ、次の瞬間、信じられないことが起きた。



「なにをしておる
さっさと中に入れ」



猫が、その小さな口から人の言葉を発した。
あぽーん。
口をぽっかりと開けて猫を凝視する。



「なにを呆けておる
早くせんか」

「は、はい」



猫の言われるがまま、ガラス戸の中へ入る。
戸惑いながら後ろの白哉を見るけど、眉を寄せたまま私を見るだけでなにも言ってくれない。
なにも言わないんだから危険はないとは思うけど、猫が喋ったんだよ?
そんなありえないことが起きたんだから、なにか説明の一つでもしてくれればいいのに。
…でも待てよ、だったら幽霊とか虚とかありえないことはここ最近いくらでも起きている。
だから猫が喋るのも当たり前なのかな?
いや!
いやいや、そんなことない!
非日常に遭遇しすぎて感覚がおかしくなってるんだ。
もんもん考えてるうちに、黒猫がふすまの前で立ち止まった。



「入れ
傷を治してやろう」



言われるがまま、部屋の中に入る。
するとそこには浦原さんが座っていてニコリと笑って手をふった。



「真冬さん!
どーも、お久しぶりッス!」

「こ、こんにちは」

「まーまー、とりあえずここに座って」



浦原さんが自分の隣りの座布団をポンポン叩く。
うろたえながらそこに座ろうとしたけど、白哉に肩をつかまれて別の場所へ座らされた。
その隣りに白哉も座る。
それを見て浦原さんは目を見開くけど、すぐ笑顔に変わって私の腕をとった。



「ありゃあ、またハデにやられましたね」

「…このくらい、大丈夫です」



うそ。
本当は少し揺らすだけでも痛い。
だけど変な見栄か、心配かけたくないという気持ちからそんな受け答えしかできなかった。
それに気分を害した様子もなく、懐から注射器を取りだし、針の先からピュッと謎の白い液体を噴射させた。
得体の知れないものを目の前に後ずさろうとするけど、腕をがっちりつかまれて動けない。

ぶっすー。

反論もできないまま、注射器を腕に差して謎の液体を注入された。



「え、ちょ、なんですか今の」

「自然回復促進剤とでも言っておきましょうか
これで傷ははすーぐ治りますよ
背中の傷もね」



語尾にハートをつけて言った浦原さん。
なんとなく胡散臭くて、ジト目で見すえると、いつの間にか浦原さんの隣りに座っていた黒猫がしゃがれた声で言った。



「しかし、服がボロボロじゃのう……
よし、儂が服を用意してやろう」

「?
アタシがやるから大丈夫ッスよ?」

「…浦原喜助」



ここで初めて、白哉が口を開いた。
その目は冷たく浦原さんを居抜き、どこか殺気すら孕んでいるような気がする。



「ほう、喜助
そんなに若いおなごの肌が見たいか」

「ははは、冗談ッスよ」



そう言ってそそくさと部屋の外へ出ていく。
白哉もそれに続き、部屋から出る直前に黒猫を睨んで一言。



「わかっているな、四楓院夜一」

「坊、そんなにこのおなごのことが心配か?
えぇ?」

「…黙れ」



パシン、ふすまが閉められた。
残された私と、言葉を喋る謎の黒猫。
居心地が悪くてせわしなく辺りを見回していると、ボォンッ、という爆発音が聞こえた。
驚いて音の先を見るとそこには……。



「ええ!?」



煙にまぎれ、褐色の肌をしたボンキュッボン美人が立っていた。

…全裸で。



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