「ねえちゃん!」



ナオ君の呼ぶ声か聞こえる。
咬まれた腕を押さえつつ、笑いながらナオ君の方を見た。
ナオ君は私の背中の傷と腕の傷を見たのか、怯えて泣いている。



「大丈夫!
こんなのぜんっぜん痛くないから!」



痛いのを笑顔で隠してぶんぶんと腕をふってみせた。
ナオ君はそれを見て安心したように、にへら、と頬を緩ませる。
すると、無理してぶんぶんふっていた腕を誰かにつかまれた。



「…図に乗るな」

「白哉……」



助けてくれた張本人、白哉は刀を手に、もう片方の手で私の腕をがっちりつかんでいる。
ぐい、と自分の方にひっぱり、血で濡れた傷跡を見て眉を寄せた。
そして腕から手を離し、ナオ君の方へ視線を向ける。



「…来い」

「?
うん!」



ナオ君は一瞬戸惑いながらも素直に頷いて白哉の元へかけよった。
そんなナオ君に白哉は……。



「え……!?
ちょ、白哉!」



手に持っていた刀を、ナオ君めがけて振りあげた。
ナオ君を助けたくても体が動かない。
私はその後に待ち受ける惨劇を見たくなくて、目をぎゅっと閉じた。



「………?」



でもカシャン、という刀が揺れる音だけで、ナオ君の悲鳴も聞こえない。
そーっと目を開いてみると、ナオ君がそこから跡形もなく消えていた。
ぽかん、ナオ君が立っていた場所から、白哉へ視線を移す。



「ナオ君は……?」

「…傷の手当てをしよう」



そう言って白哉は私の背中に手を回して、ひょい、と抱き上げた。
少女漫画の十八番、お姫様だっこで。
白哉が地面を蹴れば、とんでもない速さで景色が後ろへ吹っ飛んでいった。
私は慌てて声をあげる。



「え、白哉!?
大丈夫だからおろして!」

「…黙っていろ」

「…はい」



なんだか白哉は怒っているみたいです。
だって、表情とか、声色とか、とっても険しくて冷たいんだもの。
だけど少しだけドキドキしている私がいる。
白哉の体温とか心臓の音が服越しに伝わってきて……。
記憶の映像とは違う、体も動くし視界にノイズも走ってはいない。
誰のものでもない、正真正銘、私の“映像”。
私のものだ。

高鳴る胸を押さえて白哉を盗み見る。
ナオ君はどこに行ったのか、どうして助けに来てくれたのか、聞きたいことはたくさんあるけど、白哉の温もりが今の私には何より安心できるものになっていた。



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