あれからどれほどの時間がたっただろう。
それがわからなくなるほど、私は落ちこんでいた。
マツバさんがいなくなった毎日はとてもつまらない。
でも、これでいい。
私のせいでマツバさんの仕事に支障をきたすわけにはいかないんだ。
ぼーっとしていると、ロコンが遊んで欲しそうに突っついてきた。
「…外にでも行く?」
「コン!」
このロコンはこないだのロコン。
ジムから飛び出た私に必死についてきてて、それからずっとついてきたから、飼うことにした。
飼うと言っても、ボールで捕まえたわけじゃない。
だってどうやっていいかわかんないから。
マツバさんに訊いたら教えてくれたんだろうな。
ハッとして首を振る。
突き放したのは私じゃないか。
今さら、なに考えてんだ。
「コン?」
ロコンが心配そうに顔を覗きこんでくる。
ボールに入れないのは、もう1つ理由がある。
それは、いつでも私から離れられるように。
嫌になったらすぐ逃げだせるように。
ニコッと笑うと、嬉しそうにすりよってきた。
外へ出て、当てもなくロコンと歩く。
なるべくジムから離れた場所を。
スリバチ山のすぐ近くの湖で、ロコンを遊ばせることにした。
ゲートをくぐると、変わった格好の人が目に入る。
紫色のスーツに、白いマント、でっかい赤い蝶ネクタイ……。
下から順に見ていって、上にいくにつれて吹き出しそうになった。
「また逃げたか、スイクン……」
がっくり肩を落として、悲しみの青いオーラを噴出させている。
つい、声をかけてしまった。
「大丈夫ですか……?」
「ああ…
平気だ……」
見たところマツバさんと同じくらいの年齢。
なのにそんな格好してていいのか。
「君はエンジュの住人か?」
「はい
最近引っ越して来たんですけど……」
「そうか、じゃあ君が……
私はミナキ
スイクンハンターだ
そうだな、ミナキ君とでも呼んでくれ
さん付けは性に会わない」
「…スイクン?」
聞き返すと、驚いたように目をひんむかれた。
「なに!?
スイクンを知らない!?
まあいい、教えよう
スイクンとは北風の化身と伝えられている伝説のポケモンだ
水を司り、その姿は水晶や水を模したようにみずみずしく美しい
私は10年ほど追っているのだが、その度に逃げられる……」
「そ、そうなんですか」
「だが!
逃げるからこそ探求心が湧くものだ!
次こそ…次こそは捕まえてみせるぜ!!」
高らかにガッツポーズを決めるミナキ君。
相当スイクンが好きなんだろうな。
自分の人生をかけれる趣味があるなんて、なんだか羨ましい。
横のロコンを見てみると、退屈そうにあくびをしていた。
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