連れてこられたのは、エンジュジム。
裏口から入って、ロッカールームのような場所へ入った。



「そこ、座って」



マツバさんは怒ってるようで。
この人でも怒るんだ、と感心していると、座ってる私の前にしゃがみこんだ。
まるで、小さい子を叱る親のようだ。



「……で?」

「はい?」

「なんであんなところにいたの」

「いやあ…
なんとなく……?」



本当になんとなく。
でもマツバさんはその答えじゃ納得していないようだった。



「街の外は野生のポケモンがいて危険なのは知ってるよね
ポケモンを持ってるならまだしも、君は持ってないじゃないか」

「………………」

「…そんなに自分の命が惜しくないのか」



眉を寄せて、視線をそらす。
そんなマツバさんを、ただ見つめていた。



「…聞いてもらえますか」



マツバさんが頷いて、私は話しだす。
私の家の状況を。
そんなこと言われても困るだけだろう。
だから、話した。
困って私から離れればいい。
私のせいで、この人の時間をムダにできない。



「だから、もういいんです」

「……?」

「ほっといてください」



やっと、言えた。
なのに胸が苦しいのはなぜだろう。
喉元が鉛が詰まったように重くて冷たい。
でも笑った。
私は大丈夫だから、と。



「…なんだよ、それ」

「え?」

「そんな心で言われても、納得できるわけないだろ!」



マツバさんがいきなり立ち上がった。
私を見下ろして続ける。



「君はいっつも自分の心と裏腹なことを口にする!
自分を傷つけて……っ
なんでそこまで自分を無下にできるんだ!」

「そんなのジムリーダーさんとは関係ないじゃないですか!」

「僕の名前はジムリーダーじゃない!」



知ってる。
だから今まで気を使ってそう呼んできたんじゃないか。



「君は気を使ってるんだろうが、僕はそんなのいらない」



“いらない”。
…その言葉は、マツバさんに言ってほしくなかった。
背筋が、サアッと凍っていく。
手首がうずいた。



「…今まで迷惑かけちゃってすいませんでした
楽しかったです
ありがとうございました」



込み上げてくる涙を必死にこらえて、走りだした。
頭の中で言葉がリピートされる。

イラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイ。



「…そんなの、わかってるよ」



ジムから出て、私は行くあてもなく走っていった。



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