関所を通るとき、お坊さんはなんだか変な顔をしていた。
まあ、ジムリーダーが知らない女の子連れてきたんだから当たり前か。
ふつうはなんだと思うはず。
でもマツバさんは涼しい顔で関所を通っていった。
私も遠慮がちにお坊さんにペコペコしながら後に続く。
関所がある。
それくらいこの場所は大切で、ほいほい入っちゃいけないところなんだろう。
なんだか申し訳なく思いながら、階段を上っていった。



「うわ……」



広がる橙色の世界。
紅葉が風に舞って、ふわふわと落ちていった。
この世のものとは思えないほど、キレイ。
見とれていると、マツバさんが“ここは鈴音の小道っていうんだよ”と教えてくれた。



「鈴の塔は野生のポケモンが出てきて危ないから」

「いえ、十分です…
すごくキレイですね……」

「…うん」



どのくらいの時間、ここに立っていただろう。
ほんの数分かもしれないけど、時が止まったように永く感じた。



「あのさ、チユリちゃん」

「はい」

「昨日、なんであんなところにいたの?」



違う。
時が止まったのは今だ。
背中が凍りついたように、冷たくなっていく。
一秒一秒が、重く冷たく私の肩にのしかかってきた。



「はは、ただの散歩ですよ」

「嘘はダメだよ」

「嘘じゃないです」



笑っても、マツバさんは険しい表情を崩さない。
わかってる。
誰よりも心がろうで塗りかためられてるのは私だって。
だからこうやって平気で嘘をつける。
そうしないと自分を守る術がないんだ。



「お願いだから、本当のこと言って」

「……………」



この人に嘘は通用しない。
心の中を、見透かされているような気がした。
ジムリーダーというのは、街の人の悩みにまで干渉してくるものだろうか。
私の前の街はジムリーダーがいなかったからわからないけど、そういうものなのかもしれない。



「…死にに行こうかと」

「…やっと言ったね」



ため息をつく。
すると真剣な表情で私の頭を撫でてきた。



「…なにか辛いことがあるなら、僕に言って
なんでも聞くから」



なぜか、泣きそうになった。
優しさに触れて涙腺がゆるんだのか、次の瞬間にはポロポロ涙が落ちてくる。
慌てたようにマツバさんが袖で涙を拭いてきた。



「ごめん!」

「だ、大丈夫です」



深呼吸して心を落ち着かせる。
でも涙は止まらなくて……。
今度は私が焦っていると、ぐい、と引き寄せられた。
ぽすん、マツバさんの胸に顔が当たる。



「?、?」



頭の上にクエスチョンマークを浮かべる私。
でもマツバさんはなにも言わずに、ただ背中をなだめるようにぽんぽん叩いてくれた。
風に吹かれた紅葉が、踊るように空に舞っていた。



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