あれから父さんは母さんと話し合って、 また一緒に暮らすことにしたらしい。
私が自殺したことで家族が戻ることになるとは、なんて皮肉だろうか。
…未遂だけど。
母さんも私に謝ってきてくれて、2人して泣いてしまった。
当然のごとくエンジュから引っ越すわけで。
今日はその引っ越し当日だった。



「良い天気ねえ、ロコン」

「コーン!」



パタパタしっぽを振る。
マツバさんが言ってたんだけど、ロコンは赤ちゃんの頃しかしっぽが変化しないらしい。
赤ちゃんの内にいっぱい愛されて、それで初めて赤く、6本のしっぽになれるんだとか。
それを教えてくれたマツバさんは、これでミナキ君とおあいこだ、と誇らしげに笑っていた。



「チユリちゃん」

「マツバさん!」



引っ越しのトラックに荷物を運んでいたとき、マツバさんが後ろから声をかけてきた。
悲しそうに笑って、私の頭を撫でる。



「行っちゃうんだね……」

「……………」

「そうだ、これあげる」



手渡されたのは、マツバさんの片方のリストバンド。
傷口を隠すにはちょうどいい。
いや、それ以上。
握りしめて、マツバさんを見た。



「ありがとうございます
大切にしますね」

「うん」

「…マツバさん
聞きたいことがあるんですけど」



そう言うと、なに?と優しく頷いてくれた。
いたずらっぽい笑みを浮かべながら口を開く。



「私が遠くにいても、千里眼で私のこと観れますか?」

「!」



マツバさんが驚いた顔をして、ひきつった笑顔を見せる。



「ミナキ君から聞いたね……
…うん、チユリちゃんは見えない」

「そうなんですかー」

「あー!
もうやめた!」



吹っ切れたように呟いて、私を抱きしめた。
トン、トン、と少し早い鼓動が聞こえる。



「黙って見送ろうとしてたけど、やっぱり無理
チユリちゃんがあんなこと言ったから、我慢できなくなった」



体を離して、目を合わせる。
真剣なその顔に胸が高鳴った。



「どこにもいかないで
僕の傍にいて」

「はい」



……………。

一瞬間が生まれる。
マツバさんがえ?という顔で私を見てきた。



「私、エンジュに残るつもりですよ
最初から」

「…え?」

「…やっぱり千里眼使ってなかったんですね」



誠実なマツバさん。
表情がポカン、からパアア、に変わった。



「ほんとに!?」

「はい!」

「じゃなんでさっきあんなこと言ったの!?」

「ちょっと本当に私が見えないのか聞きたくて……
あとマツバさんがあんまりにも悲しそうだったからつい……」



はは、と笑うとまた抱きしめられた。
もうぎゅーーって。
少し苦しくなってきた頃、マツバさんが囁いた。



「僕の家で、一緒に住んでください」

「…え?」



今度は私がポカン。


お昼頃の高い日差しがぽかぽかと体を包みこむ。
まるで絵の具をそのまま塗ったような青空は、私の心とおんなじだ。
この手首の傷は消えないけど、それと同じようにマツバさんへの気持ちも消えない。
マツバさんがくれたリストバンドが、労るように傷口に触れている。

抱きあう私達の周りを、紅葉が踊るようにひらひらと舞い落ちた。

-end-



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