沈黙がどれくらい続いただろうか。
それを破ったのは、マツバさんだった。



「なんでミナキ君といたの?」

「…ロコンを遊ばせようとしてここに来たらミナキ君がいたんです」

「…そう
ミナキ君になにか言われた……?」



不安げに尋ねてくるマツバさん。
…そんなの、私の心を覗けばわかるんじゃないのか。
今は使ってないってことか。



「ジムリーダーさんが千里眼だとか末裔だとか」



そう言うと、ばつが悪いといったように頬をかく。
そんな悪く思う必要ないのに。



「言わなくてごめん…」

「いえ、怒ってないです
…いっつも千里眼使ってたんですか?」

「いつもってわけじゃない
最初にチユリちゃんと会ったときは使ってなかったよ」



マツバさんいわく、千里眼を使わなくても相手が強く思ってることは見えてしまうことがあるらしい。



「でもジムのときは使ってたでしょう?」

「…うん
ごめんね」

「…こちらこそすいません」



あの時マツバさんは、そんな心で言われても納得できない。
そう言っていた。
今思えばおかしいよね。
なんで私の心がわかるんだ、みたいな。
…ちょっと待てよ。
じゃあ離れたくないって思ったの、バレてる……!?
顔がいっきに熱くなった。
そんな私にマツバさんが大丈夫?と声をかけてくる。
これでもかってくらい首を振った。



「大丈夫です!
あっ、あと落ちこんでるって聞きました!」

「……え」



マツバさんの顔も赤くなる。
口元を手でおおい、視線を泳がせた。



「えっと、どこまで聞いた?」

「自殺の止め方相談したり、傷つけたって悩んでたことまで……」

「ほとんど全部じゃないか……」



がっくり肩を落とす。
耳まで真っ赤にしながら、唸っていた。
でも意を決したように私と向き直る。
まだかすかに顔が赤いマツバさんを見てると、こっちまでなんだか恥ずかしくなってきた。



「チユリちゃん、こないだはごめんね
傷つけるようなこと言って……」

「いえ、私が悪いんですよ…
ごめんなさい……」



すると、うたた寝していたロコンが起きた。
マツバさんを凝視している。
どうやらマツバさんが気に入らないらしい。



「ミナキ君からロコンのこと聞いちゃったよね?」

「はい」



マツバさんが顔をしかめた。
すねてるような、怒ってるような、そんな顔。



「それ、本当は僕が教えようとしてたのに」

「…え?」

「ジムで言おうとしたんだけど、タイミング逃しちゃって……」



だから、怒ってたの?
ミナキ君に先に言われちゃったから?
そんなすねた顔して、まるで子ども。
つい、笑ってしまった。



「笑い事じゃないよ
ボールだって僕があげようとしてたのに」



ミナキ君め、とぶつぶつ言っているマツバさんが、とても愛おしく見えた。
………………。
え?
私、今なんて?
ええ?



「…あの、今千里眼使ってます?」

「?
使ってないよ」

「よかった……」

「え?
なに?
なに考えてたの?」

「ぎゃー!
ちょっと、やめてやめて!」



意地悪げに迫ってくるマツバさんから逃げる。
すると、マツバさんが優しく笑った。



「……?」

「あのね、チユリちゃん
聞いてくれるかな」



マツバさんの隣りに座る。
それを見て、マツバさんは話しだした。



「僕が君をスリバチ山から連れ戻したのは、最初こそジムリーダーとしての責任感だった
街の人が死ぬのは嫌だからね
でも今になって考えてみると、それは違った」



私を見てニコッと笑うマツバさん。
つい、目をそらしてしまった。
それに構わず続ける。



「ジムリーダーだからとか、街の人だからとか関係なく、チユリちゃんに死んでほしくないと思ったんだよ」

「……………」

「まだわかんないか
じゃあなんで僕がミナキ君のボールを取ったかわかる?」



…使わせたくなかったから?
でもなんで?
考えてると、マツバさんが頭を撫でた。



「うん、ミナキ君からもらったボールなんて使ってほしくなかったんだ
チユリちゃんの初めてのポケモンは、僕から贈ったボールで捕まえてほしい」

「ありがとうございます……?」

「…まだわかってないね
じゃあ、率直に言うよ」



ぎゅっ、と手を握られた。
ひんやりとしたマツバさんの手。
恥ずかしいけど、なんだか心地よかった。




「好きだよ」




時が止まったように感じて、次の瞬間には顔が熱くなる。
好き……?
マツバさんが私を……?
ありえない、そんなの。



「私、は…
そんな好きになってもらえるような人間じゃないです……」

「どうして?」

「だって私こんな性格だし、かわいくないし、」



途中から涙が溢れてきた。
信じられない。
私はマツバさんにはふさわしくない。
こんな面倒な性格だしそれに。



「それに、リストカットしてるんですよ…
こんな暗い子よりもっともっとマツバさんに似合う人たくさんいますよ……!」

「……………」



無言で私の服の袖をまくる。
抵抗しても、力でねじ伏せられた。
現れた傷跡。
空気に触れて少し痛んだ。
ロコンが心配そうに私にすりよってくる。



「ね…?」



さすがに引いただろう。
でもマツバさんの表情は変わらない。



「引かないよ
こんなことで僕が離れるとでも思った?」

「…………っ」

「そういうとこ含めて、チユリちゃんが好きなんだ
チユリちゃんは?
僕のこと嫌い?」



嫌いなわけじゃない。
マツバさんといると落ち着くし、楽しい。
でも……。



「嫌いです」

「また嘘をつく」



千里眼……!



「ずるいですよ、それ……」

「はは、ごめんね」



手首の傷跡にそっとキスされる。
心のろうが、融けだした気がした。



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